惚れたら最後。
「絆ってタバコ吸わないよね」



二杯目をワインを注ぎながら思ったことを口にした。



「タバコ?一時吸ってたけど永遠と母さんが嫌がる。
琥珀も吸わねえな」

「吸わないねえ、でも夢がヘビースモーカーだったから慣れてる」

「へえ」

「アメスピの8ミリ、ずーっとそればっかり吸ってた」



琥珀はワインボトルをそっと置き、頬杖をついてどこか遠くを眺めた。



「好きな人が吸ってたんだって。一種の呪いだって言ってた」



夢は先代の梟が───拓海さんのことが好きだった。

だけど彼らが恋仲になることはなかった。

だから夢は叶わない好きという気持ちを「呪い」と表現したんだ。

ぼーっと部屋の隅を見つめていると、絆に注目されていることに気がついた。



「あ、ごめん関係ない話しちゃって」

「いや、そういう話をしてくれるのは嬉しい。
遠慮なく話してくれ、いくらでも聞く」

「ありがとう……でも今日は泣きたくないからやめとく」



私は二杯目のワインを飲んだ。

少し残してグラスを置き、明るい表情で絆に問いかけた。



「で、どんな感じにするんだっけ?」

「何が?」

「髪色」

「あぁ……琥珀と同じ色とか?」

「え、それは嫌かな……」



びっくりして思わず嫌だと言ってしまった。



「嫌なのか?」

「うーん、そこまで一緒にしなくていいと思う。
絆は黒髪の方が合ってると思うし」

「黒に戻したらすぐ落ちるんだよな。これ3回ブリーチしてるから」

「ああ、髪真っ白の時期あったもんね」

「うん、そこから白狼って異名がついたらしい」

「え、そうだったの?」



他愛のない会話をしながふと思った。

お互いに知らないことを知っていく、こんなたおやかな時間が幸せでたまらないと。

惚れたら最後、なんて意地になってたけど結局この人と出会えてよかった。

私は幸福感を噛み締めて笑った。
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