惚れたら最後。
「あ、それと」



絆は何か思い出したように私の目を見つめる。



「何?」

「正月初詣行こう」

「うん、いいよ。どうしたのそんな改まって……はっ」



思い出した。

荒瀬組の組長は正月に壱華さんを連れて参拝することを。

そしてまさか私を同行させるつもりではなかろうかと。



「よし、言質は取ったからな。当日嫌がるなよ」

「え、ちょっと待って。私はだいたい、家族じゃないし、婚約者じゃないのに一緒に参拝なんて」

「いずれ家族になるだろ?」

「え……あ、うん」



遠回しにプロポーズされたみたいでなぜか恥ずかしくなった。



「てか、荒瀬絆に婚約者ができたってもっぱらの噂だから連れて行っても誰も文句言わねえだろ。
むしろカタギの連中も琥珀に興味津々だからな」




そういうと絆はスマホを操作し「これ、最近の記事」といってゴシップニュースとまとめサイトのようなものを開いた。

『荒瀬絆に婚約者!?噂になっている超美人な彼女について調べてみた!』

見出しの文章を見て目を疑った。



「なにこれ……」



ヤクザがこういったものに取り上げられるなんて普通ありえないが、絆は顔がいいから割と取り上げられる。

というか、絆もこういう記事を読むんだとびっくりした。



「よく嗅ぎつけるよなぁ、こういう記事書いてるやつら。
まあ、おかげで琥珀の注目度が上がって助かったけど」



独り言を言う絆は、スマホの画面に注目するのをやめてちら、と上目遣いで琥珀を見た。



「言ったろ?お前のこと見せびらかすって。
俺は自慢したくて仕方ねえんだよ」



今日一番の笑顔を見せた絆にたじたじだ。

それだけ愛されていると思うと嬉しいような、むずがゆいような……。

ふと、絆と出会ったことで始まった、怒涛の1年を振り返った。

いろいろあったなと思いながら改めて絆のその漆黒の美しい瞳を見つめた。
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