惚れたら最後。
「勘弁してよ、よりによってヤクザの若頭に気に入られるなんて冗談じゃない」

「いいんじゃないか?情報屋辞めるきっかけになって。
お前頭いいし、いっそ姐になって支えてやりゃいい。
危険は伴うが、思うぞんぶん贅沢できるぜ」

「はあ、そういういい加減なところ、さすが夢のお師匠様って感じ」

「お褒めいただきどーも。安心しろ、仕事はくそ真面目で堅物演じてるから。医者としての評判もいいぞ。
なんたって※カイザーで荒瀬の双子取り上げたのも俺だしな。
あいつら生まれて17年経つが、未だに俺宛にお歳暮届くぜ」

「はいはい、荒瀬志勇の子どもの永遠(とわ)刹那(せつな)ね。
『あの時あの荒瀬志勇が泣いたんだぜ?おったまげて凝視してたらなんだその目は、って言われて死を覚悟した』でしょ?その話累計で175回目だよ」

「ははっ、参った。全部読まれてら」



薄ら笑いをうかべる拓海さんを横目に、そろそろ帰り支度を始めようと動き出した。



「無茶すんなよ、琥珀。
全部嫌になったら情報屋辞めて、俺と養子縁組して親子になろう。
流星と星奈も一緒にな」

「……ありがとう拓海さん。
でも私、もう少し夢の姓を名乗っておきたいな」



拓海さんの優しい言葉に笑いながら鍵を渡し、私は屋上を後にした。




※カイザー……帝王切開
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