惚れたら最後。
翌日、私は生理不順を改善するための低用量ピルをもらう目的で都内の総合病院にいた。

産婦人科の待合室で待ち、受付番号が電光掲示板に表示されたので指定された診察室に入った。



「こんにちは、“相川(あいかわ)さん”」



よく使う偽名で琥珀の名を呼ぶ目つきの鋭い男は、鳥飼拓海(とりかいたくみ)

まるで猛禽類のような風貌(ふうぼう)のこの男は、産婦人科医であり、48歳という若さでありながらこの総合病院の副院長代理に務めている人間だ。

彼は私と「同じ目」をしている。

つまり何を隠そう、彼が初代梟である。



「では前回と同じくヤーズフレックス3シート出しておきますね。他に質問ありますか?」



診察が終わり、私はその問いに無言でうなずいた。

彼はポケットから鍵を取り出し渡して「はい、ではお大事に」と言い、そこで一旦別れた。

診察室を出ると、防犯カメラに映らない非常階段から最上階まで登った。

屋上の鍵を開け、そこでスマホを利用し仕事をしながら時間を潰していた。

しばらくして背後の扉が開く音がした。



「お待たせ。で、どうした」

「拓海さん、聞いてよ」


私はさっそく荒瀬絆の件を話した。

拓海さんは懐のポケットからアメスピを取り出し火をつけた。



「なぁんだ、そんなことか。夢が生きてたらきっとあいつ大笑いしたことだろうぜ。
そいつ、もしかしてお前に惚れたのかもな」



タバコを燻らせ笑う拓海さん。

私はため息をついた。
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