惚れたら最後。
ドアを開けると廊下に繋がっており、正面奥に木製の扉と、右の壁際にもうひとつ扉を見つけた。

正面の部屋に通された。中は噂通り、ベットと間接照明しか置いてない殺風景な部屋だった。

この部屋で多数の女と性行為をしたのか。

そう考えると少し吐き気がした。

そんな私をよそに荒瀬絆はぼふっ、とベットの上に座った。

ベットはシモンズ製だった。

ただヤる部屋にまで高級品を置くなんて、さすが天下の荒瀬組って感じ。



「その辺座れ」

「立ってるままでいいです」



呆然と考えていると、前回のキャラを忘れて低い声で普通に喋ってしまった。

あっ、間違えた。

今のところは顔を赤らめて『あの、ここに連れてきたってことは私とシたいってことですか?』とか恥ずかしがるべきだったなぁ。

まあ、反省しても仕方ない。嫌悪感が(まさ)ってしまったのだから。



「……そっちがお前の本性か?」

「女ってだいたい猫かぶってるものですよ」



第六感の優れた彼になんとなくバレてしまったようだから別人を装うのをやめた。



「はっ……」



すると、不意に荒瀬絆が白い歯を零し笑った。

あまりにも完璧で綺麗な笑み。

そしてほぼ初対面の女にこんな人懐っこい笑顔を見せたことに驚いた。



「だとしたらお前猫かぶるの下手だな。
最初からキャラ作ってるのバレバレだったからな」



ニヤリと笑う彼を見て、意外とフランクな性格だなと感じた。



「まさかあなたに話しかけられるとは思ってなかったんですよ」

「へえ……お前、歳は?」

「何歳に見えます?」

「女の歳は分かんねえ」

「当てたらどうして私があなたに近づいたか教えてあげます」



そう言うと私を頭からつま先まで上から下に眺め、首をかしげた。
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