After the Rain
読みかけの本は志帆が好きだと言っていた小説家の書いた新作で、机の上に置かれたシンプルな花瓶には志帆が好きなエリカの花が飾られている。

僕の生活の中に、まるでパズルのピースのように志帆の思い出が散りばめられていて、僕の過去にしか生きていない人の思い出なんて苦しいだけのはずなのに、何故か心地いいと思ってしまう時がある。

雨上がりの空をぼんやり見つめながら、僕は笑い合って「さよなら」と言ったあの日のことを思い出した。



僕と志帆が出会ったのは、雨上がりの公園だった。

「やっと止んだ……」

カフェで雨宿りをしていた僕はため息をつき、仕事用のかばんを手にカフェを出る。空には綺麗な虹があったけど、僕の心はぽっかりと穴が空いていた。

先日、僕は付き合っていた彼女に振られた。「好きな人ができた」、そう告げられたきり連絡がつかなくなって、この関係は無理やり終わらせられた。付き合ってまだ三ヶ月ほどしか経っていないはずだったのに……。
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