雨は君に降り注ぐ
あの日。
高井先輩と、更衣室で2人きりになった日。
私は、高井先輩が出て行った後、高井先輩のロッカーをのぞいた。
そして、そこにあったモノに、目を見張った。
ロッカーの中は、ぐちゃぐちゃだった。
高井先輩の物と思われる、文房具や体操着の類。
さらには、くしゃくしゃに丸められたティッシュや、お菓子の袋などのゴミ。
それらの物が散乱したロッカーの中は、一言で表すと、『カオス』だった。
私はそれに、『散らかした』というより、『荒らされた』という印象を受けた。
決定的だったのは、ロッカーの奥に書かれていた文字。
赤いスプレーででかでかと、
『消えろ』
そう書かれていた。
そこで私は、初めて思い当たった。
高井先輩のロッカーは、何者かに荒らされ、落書きされた。
高井先輩は、そのロッカーを荒らした人に対して、怯えていたのだ。
私は、更衣室に入る直前のことを思い出す。
私は、逃げるようにして、この更衣室に飛び込んだんだった。
なぜ、逃げていたのかというと、
『吉岡さん、平気?顔色悪いよ?』
そう、声をかけられたから。
その人は、表面上だけ、心配そうな顔をしていた。
その人は、裏の顔を持っていた。
その人は、更衣室から出て来たばかりのようだった。
私の中で、何かが、かちりとはまる音がした。