雨は君に降り注ぐ

「先輩、貴重な情報、ありがとうございました。」

 私は、深々と頭を下げた。
 顔を見なくとも、一ノ瀬先輩が優しく微笑んでいることが、手に取るように分かった。

「いや、僕はただ、知っていたことを教えただけだし。」

 顔を上げると、先輩はやはり、柔らかく微笑んでいた。

「これを聞いて、どう思うのかは、君次第だから。」
「はい…。」

 先輩はまだ、私のことを名前で呼んではくれない。
 また、忘れられてしまったんだろうか。

 でも今は、そんなことはどうでもよくなっていた。

 一ノ瀬先輩の彼女の件でさえ、私の頭の中から抜け落ちていた。

「私、やらなきゃいけないことがあります。」
「そっか。頑張って。」
「じゃあ…、行きますね。」

 私が名残惜しそうにそう言うと、先輩は、私の頭をくしゃくしゃっとなでる。
 髪の毛の心配は、もうしないことにした。

 先輩は優しく微笑むと、手を振った。
 私は手を振り返すと、先輩に背を向けて、歩き出した。

 私には、やらなければならないことがある。

 バスケサークルから、いじめを消し去ること。

 バスケサークルの悪い噂。
 リーダー格の人物が、気に入らない者をいじめ、自殺に追い込んでいる。

 高井先輩は今、そのいじめのターゲットになっている。

 私は、その事実を知ったからには、彼女を助けねばならない。
 いじめを行っている者の手から、引き離さなければならない。

 ワンマンでいじめを繰り返す、リーダー格の人物、

 新川仁菜先輩から。
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