雨は君に降り注ぐ
通夜の翌日には、葬儀と告別式が行われた。
その場にもたくさんの人が訪れ、母の親友の1人が弔辞を読んだ。
父が遺族代表の挨拶をした後、私と父は、車で火葬場へと向かった。
母は死んだ。
そのことは、昨日で充分実感した。
それでも私は、まだ、夢の中にいるような気分だった。
母は、この世にはもう存在しない。
世界のどこをいくら探しても、見つかることはない。
信じられなかった。
もう、会うことができないだなんて。
火葬が終われば、母の姿を見ることが2度と叶わないだなんて。
私は、火葬が終わるまで、ずっとぼんやりしていた。
どこかでお経を読む声が聞こえた。
父のすすり泣く声が聞こえた。
記憶は定かではない。
心ここにあらず。
収骨の時も、私はぼんやりしていた。
やっと我に返ったのは、実家に帰宅してからのことだった。
父が、心配そうに声をかける。
「大丈夫か?今日1日、ずっと青い顔をしていたぞ?」
大丈夫。
私は、大丈夫なの?
「…うん。多分、平気、かな。」
多分、平気ではない。
でも、父に心配をかけたくはなかった。
父は、しばらくの間、右手を顎に当て、何かを考えているようだった。
そして、顔を上げると、私の目を見つめて言った。
「結希。俺と一緒に、暮らさないか…?」