雨は君に降り注ぐ

「え…。それって、どういう、」
「1人暮らしをやめて、俺と、ここで暮らさないか?」

 想像していない言葉だった。

 1人暮らしを、やめる。
 別に、悪いことではないだろう。
 デメリットも見当たらない。

 そもそも、私が1人暮らしを始めた理由って、なんだっけ?

 …青葉大学に通うため。

 実家からだと、青葉に通うには、距離的にも肉体的にも厳しいものがあるから、1人暮らしを決意したんだ。
 でも、1人暮らしをしてまで、青葉に通う必要はないんじゃない?

 そもそも、私が青葉に通うことを決めた理由って、なんだっけ?

 …桜庭学園の人と、同じ大学に通いたくなかったから。

 だから、私は、偏差値もそこそこで、桜庭学園からとにかく距離の離れている、青葉学園に進学を決めた。

 もう、いじめられたくはなかったから。
 もう、あの痛みを感じたくなかったから。

「でも、私、青葉をやめたくない…。」

 私がそう言うと、父は難しい顔をして考え込んだ。

「そうだよな。ここから青葉に通うのは、さすがに難しいし…。」

 私が、青葉をやめたくない理由。

 いじめられたくないから。
 桜庭学園の人とは、私をいじめていた人たちとは、2度と関わり合いたくないから。

 でも、それだけじゃない。

 青葉大学には、私にとって、大切な人たちがいるから。
 大好きな人たちがいるから。

 理子。
 工藤くん。
 涼介先輩。
 高井先輩。
 一ノ瀬先輩。

 大切な人と、離れ離れになりたくはない。

 初めてできた親友。
 優しい男の子。
 頼りになる先輩。
 可愛いチームメイト。
 初恋の人。

 大事な人たちと、一緒にいたい。
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