雨は君に降り注ぐ

 覚悟を決めると、私は走り始めた。
 人の波の中を縫うようにして、全力で走る。

 あの男が、黒フードの男が追いかけてきているのが、気配で分かる。

 私は、立ち止まることなく走り続けた。

 男との距離が、だんだん開いていく。
 3分も走ると、彼の視線も感じられなくなった。

 …逃げ切れた。

 私は、安堵のため息をつく。

 弾む息を整えてから、私は再び歩き始めた。



 アパートに到着した私は、自室の鍵を開けてから、玄関ポストに何かが入っていることに気づいた。

 取り出すと、それは、茶色い封筒だった。

 私の背筋が凍る。

 前にも、似たようなことがあったような。

 私は、その封筒とともに、自室へと体を滑り込ませた。
 そして、近くにあったはさみを手に取る。

 この封筒を開けてはいけない。
 開けたらきっと後悔する。

 私の本能が、危険信号を出していた。

 それでも私は、はさみで封を切った。
 封筒の中身が、勢いでフローリングに落ちる。

 それは、手紙だった。

 私は恐る恐るそれを拾い上げ、見た。

 白い便せんに、ワープロで打たれた文字。


『久しぶり。

 ねえ、俺からの便りが来ない間、寂しかったでしょ?

 俺は、君のことが大好きだよ。

 心から愛してる。

 大好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き』

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