雨は君に降り注ぐ

 背筋を悪寒が駆け抜ける。
 腕にはびっしりと鳥肌。

 嫌な汗が、首筋を通り過ぎた。

 パニックにはなっていなかった。

 大丈夫。
 この部屋には、私しかいない。

 昔から、そういう勘だけはいい。

 この部屋からは、私以外の人の気配は感じられない。

 それでも、怖いものは怖い。

 茶色い封筒は、白テーブルの上に置いてあった。
 あの黒フードの男は、何らかの手段を用いて、この部屋に侵入し、また、何らかの手段を用いて、この部屋の鍵をかけてから逃走したのだ。

 つまり、このストーカーは、その気さえあれば、いつでもこの部屋に侵入することができる。

 …そんなことをして、何になるのだ。
 私なんかを追いかけまわして、何が楽しいのだ。

 侵入して、何をする気だ?

 私を恐怖のどん底へ突き落す?
 私を残酷な手段で殺害する?
 それとも、拉致して身代金を要求する?

 なんで、私なんかを追いかけるの…。

 スタイルも性格も普通。
 顔は、ブスとも美人ともいえない。

 こんな女の、どこがいいんだ。

 狙うなら、もっとかわいい子でしょ…。

 私はため息をついて、その場に座り込んだ。

 …もう、通報しよう。

 追いかけまわされて、写真を送り付けられて、自宅に侵入されて…。
 そろそろ精神的な限界が近い。

 通報して、早いところ犯人を捕まえてほしい。

 そう思い、私はポケットからスマホを取り出した。
 110番をタップし、通話ボタンを押す前に、ふと思い出す。

 今日届いた封筒には、一体何が入っているんだろう。
< 199 / 232 >

この作品をシェア

pagetop