雨は君に降り注ぐ

 アパートの自室の鍵を開ける。
 部屋に入って、私は1つ、大きなため息をついた。

 今日は、全然講義に集中できなかった。
 サークル活動の時だって、ほとんどうわの空だった。

 何をしていても、一ノ瀬先輩の顔がちらつく。
 あの、皮肉めいた笑みが。

「私、終わった…。」

 呟いて、私は、自嘲の笑みを浮かべた。

 一ノ瀬先輩に、嫌われた。
 大好きな人に、初恋の人に、嫌われた。

 胸が痛い。

 重い足を無理やり動かし、私はベッドへ体を投げ出す。

 と、部屋の中央に位置する、小さな白いテーブルに、目が留まった。
 その上に、何か置いてある。

 ベッドから起き上がり、テーブルに近づいて、私は固まった。

 それは、茶色い封筒だった。
 テーブルの中央に、ちょこんと置いてある。

「何、これ…。」

 それが何かなど、言うまでもなく分かっている。

 茶色い封筒。
 切手も貼っていない、住所も書かれていない、茶色い封筒。

 それが意味するのは、ただ1つ。

 …そんなバカな。

 私は確かに、今朝、ここを出るとき、戸締まりをしっかり行った。
 玄関の鍵も、窓の鍵も、もちろん閉めた。
 その後で確認もした。

 なのに、なんで。

 なぜこの封筒は今、ここにある?

 私が今さっき帰って来た時も、玄関の鍵は閉まっていた。
 私は鍵を開けてから、この部屋に入ったから。

 と、いう事は。

 この封筒をテーブルに置いていった人は、
 ストーカーは、
 黒フードの男は、

 まだ、

 この部屋に、
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