夜空を見上げて、君を想う。
授業も残り20分となった時、ツンツンと堀田に肩を叩かれた。
「どうした?」
と小声で聞けば、「ここを見て」とシャーペンで示す。
『今夜は満月なんだって』
…それだけ?というのが正直な感想だった。
俺は返答に困ったがとりあえず、『そうか』とメッセージの下に加えた。
すると、『満月なんだよ!月斗の日じゃん!』と意味不明なことを書いてきた。
だんだんわからなくなってきた俺は「は?」という顔をし、『なんか関係あるの?』と率直な質問を書いた。
『ただ月斗の名前に月があるから、月斗の日って勝手に思った。』
「ぶふっ」
まさかの答えに思わず吹き出してしまい、それと同時に堀田は本当にアホなやつだと思った。
「いやぁ、最近の若い子達はいいねぇ。」
あ、まずい。
英語担当の有馬先生。
そろそろ還暦を迎えるため、通称・有馬じいちゃん。
マズいと思ったが、もう手遅れだ。
クラスのみんなが俺と堀田をガン見する。
「日向くんと堀田さん、何やらコソコソとしていたようだねぇ。罰として、放課後ちょっと残ってもらおうか。」
「なにしてたんだよー」とか色々冷やかしの声が聞こえるが、俺たちはそれどころではなかった。
「えっ!?だ、だってね、有馬先生!私が今日は満月だから月斗の日だねって言ったら、月斗がなんで?って言うから、同じ月っていう漢字が入ってるから月斗の日だって言ったら笑われたんだよ!」
「有馬じいちゃん、僕は本当に無実です。悪いのは堀田です。」
なぜこんなにも必死になるのかというと、このままの流れだと罰を受けるのは確実だからだ。
有馬じいちゃんの罰はけっこう重労働を課せられると評判なため、これだけは絶対に避けたい。
「では、その今起こったことを優秀な堀田さんが英語で言えたら罰は無しにましょう。」
その鶴の一声で思わず、バッと堀田の方を向いた。
「えっ?!今日は満月です…Today is…えーと、満月はfull moonだから…あ、でもまず…」
「おいぃ!お前だけが頼りなんだぞ!」
「わかってるよ!今考えてんの!邪魔しないで!」
「はい、時間切れじゃ。」
と、痴話喧嘩をしている間に時間切れを迫られ、俺にとって英語は一番苦手な科目だったゆえに頼みの綱だった堀田は「full moon」の単語しか浮かばず、何もできずに終わってしまった。
「では、放課後にワシのところにきてな〜。」
4時間目が終わり、有馬じいちゃんはそう俺らに告げて教室を後にした。