加藤君に話がある高城さん、その後
3ヶ月後
「あ〜も〜本当、かわいい!」
教室に声が響く。
今日も田中ルミが高城雪香を見て言った。
* … * … * … * …* … * … * … * …* … * … *
雪香が加藤慧一くんと付き合い初めて最初に驚いたのは、加藤くんが教室でもベタベタしてくる事だった。
彼と付き合ったら、って考えたりしていたけど、こんなかんじとは思わなかった。
あんなクールそうにしていたのに、休み時間は必ず雪香を呼んで、肩を抱いたり、手を繋いだり、時にはキスしてくる時まである。
ちょっと困って、でも、結局は嬉しい、彼が好きだから。
加藤くんの友達の上地悠太くんも似たり寄ったりだった。
もう少し大人っぽい雰囲気だけれど、同じ時期にカノジョになった相川真名と、何とも言えない空気が2人の間に流れていてドキッとする。
教室のすみに2人でいた雪香と真名は、急にクラスの真ん中に引っ張り出されて注目されるようになってしまった。
ルミははじめ、どうしていいのか分からないような態度で上から下まで雪香を見ていた。
ルミが加藤くんを好きらしいって気持ちは、どちらかというと、ちょっと芸能人を好きって気持ちに近いみたいだった。
ルミは意地悪な子じゃない。
思った事をはっきり発言するだけだった。
そのうちルミは、ため息をついて加藤くんと雪香を見るようになり、「あーもー」とか「分かったし」とかぶつぶつ言い出した。
お昼休み。
今日は加藤くんも上地くんも用事で教室にいないので、雪香と真名で昼ごはんを食べていた。
すぐ近くにルミもいて、何となく、一緒に食べるでもなく、全然別でもなく、話が聞こえるぐらいの距離で座っていた。
ガラッ
教室の後ろのドアが開いた。
「高城って、このクラス?」
下級生の女子が数人、真ん中にすごく可愛らしい女子を囲んで戸口に立ち、雪香を呼び捨てで呼んだ。
真ん中の子は少し俯いて泣きそうなかんじだし、周りの女子達はキツい顔をしている。
雪香がどうしようかと、食べる手をとめてじっと戸口を見たら、女子達が雪香をみつけて教室に入ってきた。
雪香の前に立つと、俯いている可愛い子を前面に出して、横にいた子が雪香に言った。
「加藤さんと別れてください!」
「えっと、」
「この子、加藤さんが好きなんです」
と、その可愛い子の肩を抱く。
「あなたが加藤さんに付き纏ってるって、みんな噂してますよ!」
その瞬間、後ろからルミの低い怒った声がした。
「バカじゃないの?あんたたち」
ルミが立ち上がって、下級生と同じように雪香の肩に手を置いた。
「加藤に殺されるわよ。付き纏ってるのは雪香じゃなくて加藤の方なんだから」
下級生たちは、うっと返事に詰まった。雪香はその俯いてる可愛い子の気持ちが痛いほど分かるような気がした。
加藤くんが好きなんだ。
「ごめんね」
と雪香が呟いた。
「ごめんなさい、でも、私も加藤くんが好きって気持ちはどうしようもない」
泣きそうになって言ったら、何だか場がしんみりした。
雪香は不安そうで、でも、はっきりと自分の気持ちだけは言う。
確かに好きって気持ちは、言われたからって変えられない。
付き合っていて好かれてるはずのカノジョだって、今後どうなっていくのか分からない不安と隣り合わせで、現に、今、こうして可愛い次の子が現れている。
確かなのは自分の気持ちだけなのかも。
でも好きな気持ちはどうしようもない。
下級生たちは雪香の態度に、そうかも、と毒気を抜かれたようだった。しんみりしたまま帰って行った。
残った雪香も、ぼんやり座った。
「あの、ありがとう、ルミ」
ルミもいつの間にか、雪香と真名の机に加わっていた。
「なんか、可愛いい子だったね。あんな子に告白されたら⋯⋯ 加藤くん、ここにいなくてよかった⋯⋯ ぐすん」
落ち込み涙ぐむ雪香に、
「はあ、何言ってんのよ。ほんっと、かわいいんだから⋯⋯ 」
とルミが言った。
「雪香ってかわいい」
雪香はありがたかった。力強くそう言ってもらうと、加藤くんと付き合っていていいんだ、と思える。
雪香が自信なく薄く笑ったら、ルミが、
「だいたい、ベタベタされて困ってるのは雪香の方じゃない?何?加藤ってどうなの?」
と言い出した。
「カノジョが自信持てないとか、変な女が文句言いに来るとかどうよ?加藤ちょっと怪しいよね。意地悪なとこあるし」
「いや、まさか!私が自信ないだけだよ。それはないって」
雪香が慌てて言った。加藤くんが怪しいとか、それは絶対ない、と思う。
「ちゃんとカレシしてんの?雪香、我慢してない?酷い事とかされてない?」
「加藤くん優しいよ!えっと、他の人と比べようがないんだけど⋯⋯ 、あ⋯⋯ ちょっと⋯⋯そう⋯⋯ 」
雪香が言い淀んだ事に、ルミが素早く、
「えっ?ちょっとって何?なんか思い当たる事があるの?言ってみ?」
と低い声で聞いた。自然と声がひそまる。
ルミも真名も頭がくっつくぐらいに聞き耳を立てた。雪香が小さい声で言いにくそうに続けた。ルミと真名は、ごくっと唾を飲み込んだ。
「えっと⋯⋯ なんていうか、その日⋯⋯ 例えばここってなったら、そこばっかり、ものすごく丁寧っていうか、しつこ⋯⋯ 」
「何話してんの?」
3人とも飛び上がった。
加藤くんがいつの間にか教室に戻ってきていて、雪香の真後ろにきていたが、話に夢中になっていて、気付かなかった。
「誰の話?丁寧なのって?」
「いや、あの⋯⋯ ⋯⋯ ⋯⋯ 」
雪香が答えられずにいると、加藤くんは、優しそうににっこりと微笑んだ。
ルミも真名も何だか寒気がした。
「じゃ、今日はここだね?」
と加藤くんは雪香の唇を親指で撫でた。
その指は雪香の顎に添えられる。
「ずっと塞いどこうか、これ以上余計な事を言わないように」
と唇をよせながらにやりと笑った。
* … * … * … * …* … * … * … * …* … * … *
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