加藤君に話がある高城さん、その後
3年後
3年後
加藤慧一と高城雪香は同じ大学に進学した。
今年2年生。
同級生だった上地悠太と相川真名も一緒だ。
それぞれ慧一は悠太と同じ、雪香も真名と一緒の学部だった。
高2の修学旅行から付き合って、3年がたつ。
相変わらず加藤くんはベタベタに大事にしてくれるが、ちょっと意地悪なのは変わらない。
いつの頃からか雪香は加藤くんの事を「慧くん」と呼ぶようになっていた。
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「悪い、おれ、今日、用事あるわ」
今年になってから何回目かな、最近、慧一は用事が多い。
大学に入学した4月、2人で同じサークルに入った。慧一が雪香だけでサークル入部するのを嫌がったからだった。
最初の飲み会、新歓コンパ。
男子生徒の隣になったら、加藤くんが、
「席かわれ」
と女子の間に移動して座らされ、みんなに付き合ってる事がバレた。
溺愛を隠さないから、大学では雪香は慧一のカノジョだと知られている。
雪香も真名がいつも一緒にいるし、ほとんどが女子ばかりの学部ということもあり、ほぼ女子校のような毎日だった。慧一は安心しているみたい。
でも。
慧一はモテる。
大学に入ったら、ますます自由な女子も増えて、カノジョがいてもいいんです、とか一回付き合ってみようよ、とか。
全部断ってる、らしい、って言うのは悠太の証言。
慧一が悠太と毎日一緒なのは、本当に心強いし助かる⋯⋯ はずだった。
そして、この状況⋯⋯ 。
昨日、慧一は用事があると雪香が誘った時に言っていた。
用事の内容までは聞いてないけど、でも疑った事はなかった。
講義の終わった大教室で、雪香が真名と座って荷物をまとめていた時。
雪香の前に1人の女子が立った。
今まで見たことない子だった。
雪香とぜんぜん違うタイプ、小柄でアクティブでスポーツが得意そうな派手な子だ。明るく人目を引くので、同じ教室にいたら印象に残っただろう。違う学部らしいと思った。
「でさ、加藤慧一のカノジョってあなた?」
ハキハキと話す声。
はっきりと自信ありげな態度だった。
「そうですけど⋯⋯ 」
と雪香は答えた。
「昨日さ、私、加藤慧一と一緒だったんだよね」
雪香がじっと彼女を見ていたら、
「彼は私のだから別れてくれない?」
と言われた。
加藤くんが浮気なんて、信じられなかった。でも、この人は、『加藤慧一』って言ってる。昨日、慧一は用事あるって言っていた。
「昨日だけじゃないから、慧とは何回も夜を過ごしてる」
真名が、
「ちょっと、簡単に変なこと言うんじゃないわよ!」
と言っている。
信じない。
こんな話。
雪香はショックを受けているのか冷静なのか、自分でも分からなかった。
ただ、彼女を見て、全然自分と違うと思い、昨日一緒にいた、って事、何回も会ったって事が、遠く他人事のように聞こえて、まるで冷静みたいなかんじだった。
彼女は雪香たちの後ろの席に座り、証拠とでも言うように、
「この日と、この日と」
とカレンダーの日付をさす。
でも、彼女から聞く日は、不思議と全部、慧一が特に何も言わなくて雪香と会わないなかった日だった。
「ほら、彼ってしつこいじゃん、ねちこいっていうか」
ベラベラと事細かに話し始める。
あまり、賢い感じの女の子じゃない。
加藤慧一と名乗る彼と、数回寝た、その証拠だか自慢だかを話して、つまりは責任とって自分と付き合って欲しいと。
彼との夜を聞き、慧一らしいと思ってしまう⋯⋯ 。
だんだんショックでどうしていいかわからなくて、話を聞いて、圧倒されて、
「じゃ、そーゆー事で。彼と別れてくださいね!」
と、言いたい事を話した彼女は、去っていった。
真名が「何なんあれ、」と呆れて、
「まさか信じてないよね」
と言っているのが遠くに聞こえる。
多分、雪香は顔は薄く笑って相槌を打ったんだろう。
多分、普通に家に帰って、寝て、普通に朝になったんだろう。
そして大学に来て⋯⋯ 。
今、彼、加藤慧一に、会っている⋯⋯ 。
彼の友達も数人一緒だ。
学食。
広い部屋にガヤガヤと大勢の生徒たちの声⋯⋯ 。
「昨日どうしてたかって?秘密」
会えば普通に意地悪な彼のままだった。
昨日の用事を雪香が聞いたら、別に悪びれず、普段通りに意地悪してきた。
「秘密⋯⋯ って」
でも雪香は普段通りじゃない。現実感がなかった。
「なんで秘密なの⋯⋯ ?」
ショックがまわってきた。教えて欲しかった。答えて欲しい。違うって事を聞きたい。
「雪香?どうした?」
真っ青で変な様子の雪香に、さすがに慧一も、
「いや、秘密って、そんなんじゃ、」
と言いかけた時、雪香の目に昨日の彼女が見えた。
ちょうど向い合って座る慧一の後ろから、こちらに向かって歩いて来る。
雪香には見えているが、慧一はまだ気付いていない。
ガタン!
雪香は、思わず慧一の前に立ち塞がり、
「だめ!」
と叫んだ。
体で彼女から慧一をかばった。
周りの生徒が雪香と、彼女と、驚いて見ていた。
腕を開いて、慧一が見えないように立ち塞がる雪香と、
「えっ?何?」
と立ち上がる慧一。彼女と対面してしまう⋯⋯ 。
彼女が慧一を見て、あれ?と言った。
「だれ?この人?」
それを聞いて、雪香は初めて気が遠くなって、意識を失った。
慧一は倒れる雪香を受け止めて、どうしようか、と椅子に座った。
一緒にいた慧一の友達も、あぜんとしている。
慧一の後ろにいた見た事のない女性が、
「えー、だってぇー」
と気まずそうに話し出した。
彼女によると、
「『加藤慧一』と名乗る男の子と何回か寝てぇ〜、そのカノジョ、高城さんの彼も加藤慧一だから、てっきりそうだと思って〜、高城さんに話をつけたんだけどぉ〜⋯⋯ 」
女性は、
「ごめんね、人違いみたいっ!」
と言って、去っていった。
同姓同名なのか、名前だけ使われたのか、分からないが、とにかく慧一は女性の言う相手ではなかった。
雪香は慧一の腕の中で目がさめて、慧一が目の前にいてダバーっと涙が出た。
「おまえ、なに?俺があの子と浮気したって疑ってたの?」
「だって⋯⋯ 」
ダバダバ、涙が出る。
「私、他の男の子がどんなだか全然知らないから、詳しく聞かされて、しつこくてねちこかった、って聞いて、加藤くんだと思ったから、うっうっ⋯⋯ 」
しつこくて、ねちこい⋯⋯ ⋯⋯ 。
友達も周囲も、うわぁ⋯⋯ という気分だった。
慧一も珍しく黙って冷や汗をかいていて絶句した。
「お前な⋯⋯ 」
「よかった、苦しかった」
と泣く雪香に、慧一は「馬鹿だな」と言う。
力が抜ける。
こんな風に、隠す事ができず、全力で自分を好きでいる雪香がどれだけ愛しいか。
それから、涙を指でぬぐって、抱きしめた。
「私以外を触らないで欲しい、私以外を好きにならないでほしい」
「うん、絶対、知らないとこでそんなことしないから。事前にちゃんと言うから。秘密にしないよ、安心して」
「ありがとう⋯⋯ 安心した⋯⋯ うっうっうっ」
聞いてる周りが「えっ?」思った。
「事前にちゃんと言う?」って⋯⋯ 。
そこは、そんなこと絶対しないじゃないのか?
本人たちは気がついてない。
まあ、当のカノジョが安心するなら、それでいいいのかもしれない。
慧一は誰にも聞こえないように雪香の耳にささやいた。
「覚悟しとけよ、しつこくてねちこく、やってやるから」
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加藤慧一と高城雪香は同じ大学に進学した。
今年2年生。
同級生だった上地悠太と相川真名も一緒だ。
それぞれ慧一は悠太と同じ、雪香も真名と一緒の学部だった。
高2の修学旅行から付き合って、3年がたつ。
相変わらず加藤くんはベタベタに大事にしてくれるが、ちょっと意地悪なのは変わらない。
いつの頃からか雪香は加藤くんの事を「慧くん」と呼ぶようになっていた。
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今年になってから何回目かな、最近、慧一は用事が多い。
大学に入学した4月、2人で同じサークルに入った。慧一が雪香だけでサークル入部するのを嫌がったからだった。
最初の飲み会、新歓コンパ。
男子生徒の隣になったら、加藤くんが、
「席かわれ」
と女子の間に移動して座らされ、みんなに付き合ってる事がバレた。
溺愛を隠さないから、大学では雪香は慧一のカノジョだと知られている。
雪香も真名がいつも一緒にいるし、ほとんどが女子ばかりの学部ということもあり、ほぼ女子校のような毎日だった。慧一は安心しているみたい。
でも。
慧一はモテる。
大学に入ったら、ますます自由な女子も増えて、カノジョがいてもいいんです、とか一回付き合ってみようよ、とか。
全部断ってる、らしい、って言うのは悠太の証言。
慧一が悠太と毎日一緒なのは、本当に心強いし助かる⋯⋯ はずだった。
そして、この状況⋯⋯ 。
昨日、慧一は用事があると雪香が誘った時に言っていた。
用事の内容までは聞いてないけど、でも疑った事はなかった。
講義の終わった大教室で、雪香が真名と座って荷物をまとめていた時。
雪香の前に1人の女子が立った。
今まで見たことない子だった。
雪香とぜんぜん違うタイプ、小柄でアクティブでスポーツが得意そうな派手な子だ。明るく人目を引くので、同じ教室にいたら印象に残っただろう。違う学部らしいと思った。
「でさ、加藤慧一のカノジョってあなた?」
ハキハキと話す声。
はっきりと自信ありげな態度だった。
「そうですけど⋯⋯ 」
と雪香は答えた。
「昨日さ、私、加藤慧一と一緒だったんだよね」
雪香がじっと彼女を見ていたら、
「彼は私のだから別れてくれない?」
と言われた。
加藤くんが浮気なんて、信じられなかった。でも、この人は、『加藤慧一』って言ってる。昨日、慧一は用事あるって言っていた。
「昨日だけじゃないから、慧とは何回も夜を過ごしてる」
真名が、
「ちょっと、簡単に変なこと言うんじゃないわよ!」
と言っている。
信じない。
こんな話。
雪香はショックを受けているのか冷静なのか、自分でも分からなかった。
ただ、彼女を見て、全然自分と違うと思い、昨日一緒にいた、って事、何回も会ったって事が、遠く他人事のように聞こえて、まるで冷静みたいなかんじだった。
彼女は雪香たちの後ろの席に座り、証拠とでも言うように、
「この日と、この日と」
とカレンダーの日付をさす。
でも、彼女から聞く日は、不思議と全部、慧一が特に何も言わなくて雪香と会わないなかった日だった。
「ほら、彼ってしつこいじゃん、ねちこいっていうか」
ベラベラと事細かに話し始める。
あまり、賢い感じの女の子じゃない。
加藤慧一と名乗る彼と、数回寝た、その証拠だか自慢だかを話して、つまりは責任とって自分と付き合って欲しいと。
彼との夜を聞き、慧一らしいと思ってしまう⋯⋯ 。
だんだんショックでどうしていいかわからなくて、話を聞いて、圧倒されて、
「じゃ、そーゆー事で。彼と別れてくださいね!」
と、言いたい事を話した彼女は、去っていった。
真名が「何なんあれ、」と呆れて、
「まさか信じてないよね」
と言っているのが遠くに聞こえる。
多分、雪香は顔は薄く笑って相槌を打ったんだろう。
多分、普通に家に帰って、寝て、普通に朝になったんだろう。
そして大学に来て⋯⋯ 。
今、彼、加藤慧一に、会っている⋯⋯ 。
彼の友達も数人一緒だ。
学食。
広い部屋にガヤガヤと大勢の生徒たちの声⋯⋯ 。
「昨日どうしてたかって?秘密」
会えば普通に意地悪な彼のままだった。
昨日の用事を雪香が聞いたら、別に悪びれず、普段通りに意地悪してきた。
「秘密⋯⋯ って」
でも雪香は普段通りじゃない。現実感がなかった。
「なんで秘密なの⋯⋯ ?」
ショックがまわってきた。教えて欲しかった。答えて欲しい。違うって事を聞きたい。
「雪香?どうした?」
真っ青で変な様子の雪香に、さすがに慧一も、
「いや、秘密って、そんなんじゃ、」
と言いかけた時、雪香の目に昨日の彼女が見えた。
ちょうど向い合って座る慧一の後ろから、こちらに向かって歩いて来る。
雪香には見えているが、慧一はまだ気付いていない。
ガタン!
雪香は、思わず慧一の前に立ち塞がり、
「だめ!」
と叫んだ。
体で彼女から慧一をかばった。
周りの生徒が雪香と、彼女と、驚いて見ていた。
腕を開いて、慧一が見えないように立ち塞がる雪香と、
「えっ?何?」
と立ち上がる慧一。彼女と対面してしまう⋯⋯ 。
彼女が慧一を見て、あれ?と言った。
「だれ?この人?」
それを聞いて、雪香は初めて気が遠くなって、意識を失った。
慧一は倒れる雪香を受け止めて、どうしようか、と椅子に座った。
一緒にいた慧一の友達も、あぜんとしている。
慧一の後ろにいた見た事のない女性が、
「えー、だってぇー」
と気まずそうに話し出した。
彼女によると、
「『加藤慧一』と名乗る男の子と何回か寝てぇ〜、そのカノジョ、高城さんの彼も加藤慧一だから、てっきりそうだと思って〜、高城さんに話をつけたんだけどぉ〜⋯⋯ 」
女性は、
「ごめんね、人違いみたいっ!」
と言って、去っていった。
同姓同名なのか、名前だけ使われたのか、分からないが、とにかく慧一は女性の言う相手ではなかった。
雪香は慧一の腕の中で目がさめて、慧一が目の前にいてダバーっと涙が出た。
「おまえ、なに?俺があの子と浮気したって疑ってたの?」
「だって⋯⋯ 」
ダバダバ、涙が出る。
「私、他の男の子がどんなだか全然知らないから、詳しく聞かされて、しつこくてねちこかった、って聞いて、加藤くんだと思ったから、うっうっ⋯⋯ 」
しつこくて、ねちこい⋯⋯ ⋯⋯ 。
友達も周囲も、うわぁ⋯⋯ という気分だった。
慧一も珍しく黙って冷や汗をかいていて絶句した。
「お前な⋯⋯ 」
「よかった、苦しかった」
と泣く雪香に、慧一は「馬鹿だな」と言う。
力が抜ける。
こんな風に、隠す事ができず、全力で自分を好きでいる雪香がどれだけ愛しいか。
それから、涙を指でぬぐって、抱きしめた。
「私以外を触らないで欲しい、私以外を好きにならないでほしい」
「うん、絶対、知らないとこでそんなことしないから。事前にちゃんと言うから。秘密にしないよ、安心して」
「ありがとう⋯⋯ 安心した⋯⋯ うっうっうっ」
聞いてる周りが「えっ?」思った。
「事前にちゃんと言う?」って⋯⋯ 。
そこは、そんなこと絶対しないじゃないのか?
本人たちは気がついてない。
まあ、当のカノジョが安心するなら、それでいいいのかもしれない。
慧一は誰にも聞こえないように雪香の耳にささやいた。
「覚悟しとけよ、しつこくてねちこく、やってやるから」
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