カタブツ御曹司と懐妊疑惑の初夜~一夜を共にしたら、猛愛本能が目覚めました~

コーヒーを持つ手を震わせながら、苦笑いをうかべて答える。

「あー……いいんですよ課長。その件は気にしないでください」

「星野さん、そういうわけには……」

あんなに親身になってくれただけで今は十分だ。

「課長のお気持ちは、うれしかったです」

あの夜の課長の表情が頭に浮かび、思っていた以上に私を部下として大切に思ってくれていたのだという感動が甦る。

うれし涙が出そうになるのを必死で堪え、続きを話す。

「でも私、まだ自分でも整理がついていないので。……保留にしてもらえますか」

良性か悪性かまだわからないし、手術するかどうか決めようがない。
口にするとまた不安が戻り、頭上にある課長の顔をちらりと見上げる。

なにも言わず、固まっている。また混乱させただろうか。
ついにじわりと目尻が濡れ、泣いてはまずいとパッと顔を戻し、会釈をしながら紙コップを捨て、小走りで休憩室を後にした。
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