身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
しかし、相手はドールだ。死ぬという事が悲しいことだと知能的にはわかっているだろうが、ツボミ自身は何か思うのか。いや、人形なのだから気持ちなど持たないことはわかっている。悲しい表情を見せたとしても、それはシステム的に作られた顔なのだろう。
けれど、文月はどうしても気になってしまうのだ。
ツボミというドールの気持ちを。
「白銀は病気になりながらも、スミレの完成のために尽力していたらしいが、最後までスミレが目覚める事はなかったそうだ。システムが膨大で、今の技術ではAIドールが同じAIドールを直す事は難しいらしいな」
「白銀さんがスミレを完成させたかったのには、きっとツボミが目覚めた時のために寂しい思いをしてほしくなかったら。そんな願いも込められているような気がします」
「…………」
文月はそんな風に思い、桜門に伝えるが彼は何も言わずに文月を見ているだけだった。
桜門の気持ちは揺らがないのだろう。まっすぐと文月を見つめた後に「あいつの話しはこれで終わりだ」と言い、腕を組んだ。
だから、おまえの話しを聞こう。そんな態度だった。
「桜門さん。私は、白銀さんから身代わりの依頼を受けました。桜門さんからお話しを聞いて、気持ちも決まりました。私は、白銀さんの依頼を受けるべきだと、そう思います」
文月は、彼をまっすぐ見据えて、桜門の助手として結論を述べた。
「俺はこの依頼は受けない。文月に頼まれてもそれだけは変わらない」
いつもの笑顔。
だけど、その時だけは冷たく温度がない笑顔。
冷たい体の桜門にぴったりともいえる、そんな冷笑だった。