身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
桜門は急に何を言い始めたのだろうか。
彼の言葉の意味を頭で理解するのに時間がかかってしまう。
好き?大切?
どうしてそんな言葉が今出てくるのか、文月にはわけがわからなかった。
けれど、その言葉は自然の文月の体の中に溶けていく。
そうだ。本人に言われてから気づくなんて、我ながら情けない。いや、本当はわかっていたはずなのに、気づかないふりをしていたのだろう。
相手が死人だからか、彼の隠し事という大きな壁があったからか。どちらもなのか。
けれど、文月が彼に惹かれているのは確かだった。
人の願いを身代わりという形で叶える彼の姿。そして、穏やかな微笑みで自分を守り、見てくれる姿。時々見せる屈託のない少年のような満面の笑み。
そして、悲しげな瞳の揺らぎや、神秘的な雰囲気。
そんな風に彼の魅力を数えるときりがない。
それぐらいに、自分は桜門が気になっていたのだ。
自覚し、認めた事でその思いは大きくなっていく。
よく恋愛漫画であるような、好きだと気付いた瞬間から相手に対してよそよそいくなったり、緊張したりし、意識してしまう。そんな事が本当にあるのだろうか、と思っていたが今ならわかる。あれは事実だった、と。
けれど、今は少女漫画の主人公のように顔を赤く染めて、恋する瞳で桜門をみるわけにはいかない。
重要な交渉中なのだから。
「受けます。その取引」
「おまえ、取引の内容も聞かないで決めることか」
「だって、桜門さんが言ったんですよ。私は、桜門さんが大切で、好きだから。だから、取引を受けるんです」
「おまえは、やはり変わってる。いや、変わっていないのか」
桜門のその声は、とても小さく震えたものだった。