身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~




 「………初芽?」
 「………また、会えるよね?」
 「あぁ。また来るさ」
 「…………私、海里に会ってからとっても楽しくなったの。毎日楽しみで、次はあなたがどんな話をしてくれるのかなって。自分の代わりに外の景色を見てくれているんだなって思えると、今は海里は何をしているんだろう。ってわくわくするの。だから、海里。私に会いに来てくれてありがとう」
 「………どうしたんだよ。急に」


 どうしてそんな事を急に言い出したのか。
 戸惑いつつも、彼女の言葉は、海里の心を温かくするものだった。
 自分も同じだと伝えたかった。
 君に会えていなかったら、ずっと一人で夢もなく生きて人間の温かさを知ることもなかった。
 だから、「ありがとう」と伝えたかった。
 それなのに、恥ずかしさから照れ隠しをしてしまう。
 そこがまだ大人になれていないという事なのか。そう思うと悔しいが今更伝える事などできない。



 頬は赤くなっていないだろうか。そんな不安を隠しながらそう聞き返す。
 すると、初芽は「へへへ」と少女のような幼く見える笑顔を見せた。


 「ずっと言いたかった事だったの。だから、言っちゃった。………海里、またね。おやすみなさい」

 そう言うと初芽は布団の中に入り、顔を手だけを出して、小さく手を振った。


 そんな初芽の純粋で綺麗な笑顔。
 それが最後になるなど、海里は思いもしなかった。


 終わりというものは、急に訪れる。
 平凡で当たり前だと思うようになっていた幸せな時間は長くは続かないのだ、と。





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