身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~



 どうして自分は寝たフリなどしてしまうのだろうか。それに彼も起きている時に来てくれないのか。
 その理由を考えたときに、もしかして彼は身代わりの力を使ったことを良く思っていないのではないか。そう思ったのだ。
 昔から正義感の強かった黒夜。自分の怪我を、特別な力で姫白が受け取った事を怒っているのかもしれない。

 そう思うと、自分のした事が正しかったのかがわからなくなる。
 あの日の事故で、本当ならば姫白が大怪我をしているはずだった。けれど、彼が助けてくれた。だから姫白はほぼ無傷だったのだ。
 そんな彼が大切な右手を失ってはいけない。
 何度考えても、自分の行動は正しかった。

 そう思えるはずなのに、黒夜に会うのが気まずいと思ってしまうのだ。

 けれど、この個展はずっと楽しみにしていたもの。「観たらすぐに帰ればいい」と、意を決して会場へと足を踏み入れた。


 「ようこそお越しくださいました。チケット拝見いたします」
 「あ……はい、お願いします」


 姫白はスタッフにチケットを渡そうとするが、片手ではなかなかバックを開けることが出来ず苦戦してしまう。手間取っているとスタッフは右腕がないことに気づいたのだろう。「バックをお持ちします」と言って、手伝ってくれた。この言葉に甘え、バックを支えてもらいどうにかチケットを渡す事が出来た。
 ただバックから物を取るの出さえもスムーズにいかない。自分の不甲斐なさに悲しくなりながらも、なるべく手を使わないでもいいようにショルダーバッグを買おうと考えた。


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