政略夫婦の授かり初夜~冷徹御曹司は妻を過保護に愛で倒す~
 だけどそこで私が失礼なことをして、結婚はなかったことに……と言われないよう気をつけないと。

 西連地さんと結婚することが、これまで不自由ない生活を与えてくれた両親に対する、最初で最後の親孝行だろうから。

 愛されなくたっていい。結婚して、少しの自由さえ与えてくれれば。それ以上のことを望んだりなどしない。そう、思っていたのに……。

** *

 喉の渇きを覚え、重い瞼を開けると室内は暗い。どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。

 まだ夜は明けていないようだけど、今、何時かな?

 部屋の壁に掛けられている時計を見ようとするも、身体が動かない。

 チラッと首だけうしろに回すと、弦さんの整った顔が目と鼻の先にあって、悲鳴を上げそうになる。

 もう何度も近い距離で彼の顔を見ているというのに、いまだに慣れない。変に緊張してしまう。

「綺麗な寝顔」

 ポツリと声を漏らすが、弦さんは熟睡しているようで、規則正しい寝息を立てている。

 少しだけ弦さんの腕の力が緩み、私はそっと身体の向きを変えた。

 真正面でジッと彼の寝顔を見つめる。

 予想していた結婚生活とは違っていて、正直戸惑う。ううん、結婚生活だけではない。弦さんもそうだ。

 冷徹な人だと聞いていたのに、全然違うもの。

「んっ……」

「あっ」

 ゆっくりと瞼を開けた弦さんに、思わず声が漏れる。

「どうした? 眠れないのか?」

 そう言うと彼は私を抱きしめる力を強め、優しく頭を撫でた。

「だけどまだ起きるのは早い。もう少し寝ろ」

「……はい」

 弦さんのぬくもりに包まれ、頭や背中を撫でられると不思議と睡魔に襲われる。

「おやすみ、未来」

 そっと旋毛にキスが落とされ、胸がギュッとなる。
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