同期の御曹司様は浮気がお嫌い
会社で何かをされるわけじゃない。陰で笑われるだけだ。たったそれだけでも辛い。もう無理だ働けない。
「安西さん?」
背後から声が聞こえて振り向くと、すぐ近くに止まった一台の車から優磨くんが顔を出している。
「優磨くん……?」
その車の後部座席から降りて慌てて私に駆け寄る優磨くんは心配そうな顔を向ける。
「どうした?」
ああ、私を気遣ってくれる優しい声だ。
吐き気が治まってくる。優磨くんの顔を見たらほっとする。
「うぅっ……」
私はその場で泣き出した。
「安西さん!?」
優しい声をかけないで。今の私の精一杯の強がりが崩れてしまう。
すると体が突然包まれる。優磨くんが私を優しく抱きしめた。腕と共に甘い香りが私を包むようだ。香水の香りだろうか。
驚いたのと同時に慰められたことが恥ずかしくて更に涙が溢れる。
「大丈夫じゃないじゃん……」
耳元で優磨くんの焦った声がする。
「なんで泣くんだよ……言ってよ……助けたいんだ」
「ごめ……ごめんなさい……」
「謝らないで……」
優磨くんの腕の中でボロボロと泣いた。いつかのように泣き止むまで何も言わずに待っていてくれる。抱き締めて頭を撫でながら。
「俺に話してくれない? 安西さんの今の状況を教えてほしい」
こくりと頷くと優磨くんは私の手を取り、近くに止まったままの車に連れていく。
「乗って」
「でも……」
「いいから」
ドアを開けてもらい後部座席に座った。
前の運転席には一人の男性が座っている。バックミラー越しに私と目が合うと軽く会釈をした。私と優磨くんよりも少し年上の男性だ。
私の隣に座った優磨くんは自然と手を握ってきた。
「泉さん、どこか個室のある店に行ってください」
「かしこまりました」
泉と呼ばれた男性は車を静かに走らせる。もしかして優磨くんの運転手だろうか。