エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「やっぱりショパンはいいなぁ」

男性の奏でる『革命』を聴きながら、初音がつぶやく。

「さっきはひどかったなぁ。リベンジしたいよ」
「酔ってあれだけ弾ければすごいよ」

初音は落ち込む萌を励まして、店内をゆっくり見渡した。
皆、思い思いに話をしたり楽しい時間を過ごしている。

ピアノをずっと見つめて聞き入っているのは、『革命』をリクエストした男性だけだ。
仕事帰りの会社員だろうか。細身のスーツを着ている。ピアノの方に向いている顔はよく見えない。
演奏が終わるとその会社員の男性は、拍手をしながら言った。

「ありがとう。同じ曲でも弾く人によって違いますね。できればもう少し聴いていたいです。
『革命』、どなたかお願いできませんか?」



「欲張りな人ねぇ。音大生なら誰でも、いきなりのリクエストにパッと応えられると思ってるのかしら」
萌が呆れたように肩をすくめた。
二度目のリクエストに応えてくれる者は現れない。

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