エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「確かに親父、ガッカリしてたよ。
でも、あのリサイタルで涼と一緒にマーシャ・アルジェリーナと初音の連弾を聴いたから、尚更涼の気持ちがよく分かると言ってた。俺も同感。
めちゃくちゃキラキラしてたもんなぁ、初音。
超一流のピアニストと肩を並べてさ、最高の演奏だった。あの姿を見たら、涼は自分がちっぽけな存在に思えたんだろうな」

父は、天井を仰ぐように顔を上げて目を閉じた。
涼を誰よりも認め、頼りにしていた父の落胆が手にとるように分かる。

「…初音は、これで本当にいいの?」

そう尋ねた母の声は、震えていた。こぼれそうな涙を堪えている。

「…うん。日本で涼がどうしているのか、心配する必要もなくなる。他の女に取られるなら許せないけど、夢を追うならその背中を押してあげるしかない。
一度手に入れたものは私のものだなんてたかをくくって、涼のことをちゃんと見ていなかった私にも責任あるしね」

初音は、福岡陽菜と浮気をしたかもしれないと疑心暗鬼になっていた時より、ずっと冷静だ。


< 226 / 324 >

この作品をシェア

pagetop