エチュード〜さよなら、青い鳥〜
その時だった。クラウゼ教授の携帯電話が鳴った。
「噂をすれば…」
ため息をつきながら、クラウゼ教授はスピーカー機能にしてから電話を取った。
「ディアナ?マーシャを説得してくれたかい?」
英語で話しかけてきたのは、渋い男性の声だ。
「私が説得できると思うの?ヘンリー、自分でお願いしてみてよ。マーシャ、この会話聞いてるから」
クラウゼ教授も英語で返答する。
「…わかった。
マーシャ、一緒にやらないか?君以上に私の理想通りに弾けるピアニストはいないんだ」
「ハインリヒ、私はドイツ人よ」
英語で語りかけてきたヘンリーに、マーシャは冷たくドイツ語で返す。本当はマーシャも英語は堪能なのに、意地が悪い。
「…今、私をその名前で呼ぶのは君だけだよ、マーシャ。懐かしいなぁ」
ヘンリーは、流暢なドイツ語で語りかけてきた。
英語読みでヘンリー・クラウスとして活躍する彼の名をドイツ語読みにすれば、ハインリヒ・クラウゼ。彼はマーシャの元夫にしてディアナ・クラウゼ教授の実の父だった。
彼は現在、日本の交響楽団の主席指揮者を務めている。今回招かれた演奏会も、日本での開催だった。