エチュード〜さよなら、青い鳥〜
涼は、初音を見もせず仕事に集中している。
彼にとっては、初音と偶然会ったところで、どうということもないのかもしれない。

初音が弾いていたのは奇しくも二人が出会うきっかけになったショパンの革命のエチュード。


ーーあの時、あなたは目を輝かせて喜んで褒めてくれた。全てはそこから、始まった。
…ねぇ、涼。私、あなたに言わなきゃいけないことがあるの。
でも今のあなたにとって、私の存在が忘れたいようなものなら、知らない方が幸せかもしれない。


「はい、オッケーです!」


ミスタッチばかりで心ここに在らずのひどい演奏だった。
初音は大きくため息をついて、頬を軽く手のひらで叩く。



今考えるべきなのは、涼のことじゃない。ピアノのことを考えなくては。初音の演奏を楽しみにしている人達がいるのだから。

そう思うのに、つい、涼の姿を追ってしまう自分がいた。



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