エチュード〜さよなら、青い鳥〜

真実

初音に伝えたかった。素晴らしい演奏だった、と。おそらくは、一生忘れられないほど、最高の演奏だったと。
いまさら涼の感想なんて要らないかも知れない。それでも、近くにいるこのチャンスに伝えたい。

以前彼女は偶然は二回までと言っていた。次の偶然など待っていられない。衝動が抑えきれなかった。


涼は手早く仕事を済ませて、初音が居る控室へと向かった。


部屋のドアをノックする。


「はい」


初音の声で返事があった。涼は、息を整えてから部屋に入る。


初音は、用意されていたお茶を飲んでいた。部屋に入ってきたスタッフジャンパー姿の涼に、驚いた顔をする。


「…久しぶり」


口火を切ったのは、初音だった。


「久しぶり」


言葉が続かない。以前はどんな風に話しかけていたのだろう。自分の気持ちをどうやって伝えていたのだろう。涼は、思いを伝えたいと思うのに言葉にならない。





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