エチュード〜さよなら、青い鳥〜

夜を想う

初音は、ピアノに向かう。

今、胸に広がる感情を音にしたい。
頭の中に、いくつかの候補が浮かぶ。
今、練習中のベートーヴェンなら、ピアノソナタ『月光』。
それとも、甘くショパンの『ノクターン第二番』。

ここは、『ノクターン』かな。それとも…



初音は、幸せな気持ちで夜空に浮かぶ月を見つめた。月を横切るように鳥影も見える。なんだかとても幻想的で幸せな気分だ。

太陽のように、元気に力強く輝くのではなく。

四辻の眠りを妨げないように、ピアニッシモで。

窓から差し込み淡い月の光が包むように。

空を行く鳥が想いを運ぶように。


ピアノの鍵盤に指を置く。



奏でるのはドビュッシーの『月の光』。



美しく儚い旋律にのせて、生まれたばかりの“好き”という感情に浸りたい。


アンダンテ・トレ・エクスプレシィフ。
ゆっくりととても表情豊かに。

甘く柔らかで、静かな美しい曲は、あまり得意じゃない。
この曲も、自分から弾きたいと思ったのは初めてだ。


5分にも満たない演奏時間。


弾けば弾くほどに、心が落ち着く。想いが形になっていく。





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