エチュード〜さよなら、青い鳥〜
優しいピアノの音がする。
ふと目が覚めた。
一瞬、自分がどこにいるのかわからない。
月の光だけに照らされた部屋に、静かに流れるドビュッシーの『月の光』。
なんと、幻想的なのだろう。夢の中のようだ。
『月の光』は非常に有名な曲だけに名盤と言われる演奏も多い。だから、つい比べてしまう。
この演奏は、決して上手くはない。
上手くはないが、わかる。これは、自分に向けられた、彼女からのメッセージだ。
好きという感情がある、と。
聴き入っているうちに、曲は終わってしまった。
ピアノの鍵盤の上で、長く白い彼女の指が止まる。彼女自身も、窓に映る月を見つめて止まったように動かない。
「もっと、聞かせて?」
彼女のピアノに包まれている時間があまりに心地よくて。
四辻は、椅子から立ち上がりピアノに歩み寄って、彼女の肩にそっと触れた。