魔女と王子は、二度目の人生で恋に落ちる。初恋の人を生き返らせて今度こそ幸せにします!
 私たちが冒険者ギルドの三階に上がると、そこにはちょうど成果報告を終えたリクアたちがいた。剣士のシェルダさん率いるパーティ・(あかつき)の刃は、剣士と魔導士、元神官の治癒士の三人で、たまにリクアという錬金術師が入ることがある。

 ちょっと汚れたローブを着たリクアは、迷宮帰りの疲れも見せず、いつものように明るい笑顔で仲間たちと立ち話をしていた。
まだ宿に帰る前でよかった、と私は喜ぶ。

「リクア!」

 手を上げて、彼の名前を呼ぶ。
 
「おぉ、ユズ。今日は採取?それとも依頼?」

赤茶色の髪を揺らして振り返ったリクアは、私と同じように肩手を上げてニカッと笑った。
そしてすぐに私の隣にいたウィル様に視線を映し、「誰だ?」と眉根を寄せる。

「おかえりなさい!元気そうでよかった。あ、シェルダさん、お久しぶりです」

 金髪の麗人は、私に向かって笑顔を見せた。

「久しぶりだね、ユズリハ」

シェルダさんも、見慣れないウィル様のことが気になったらしく、目だけで紹介を促す。

「この人は、剣士のウィルです。さっき冒険者登録をして、昇級試験でCランクまで上がりました!」
 
「へぇ、それは将来有望だね」

 昇級試験は受ける人がそもそも少ないけれど、受かる人は半分以下。シェルダさんはウィルに向かって右手を差し出し握手を求める。

「どうも、S級冒険者のシェルダだ。よろしく」

「ウィルです。よろしくお願いします」

 向かい合っただけで、シェルダさんが強いと察したウィル様はかすかに緊張したのが伝わってきた。強い人には強い人がわかるんだろうな。もちろん、私もわかるけれど。

「リクア、ウィル様のことよろしくね?素材狩りにいくときは、一緒に行くかもしれないし」

 仲良くなってくれたらいいな。私はそう思ってリクアに紹介したのに、彼はウィル様を見ると急に不機嫌になってしまった。

「はぁ!?何でだよ、誰だよこいつ」

 ウィル様ですけれど。こいつ呼ばわりされて私はムッとした。
でもウィル様は嫌な顔ひとつせず、スッと右手をリクアに差し出す。

「ウィルだ。剣士で登録した。よろしく頼む」

「っ!」

 その手をなかなか取らないリクアは、シェルダさんにまたまた背中を拳で叩かれた。今度はちょっと強めで。
 渋々といった感じでウィル様の手を取るリクア。友好的には見えない。

「錬金術師のリクア。あんたユズの何?」

「ちょっと、そんな言い方って……!」

 何って、何!?そこは触れないでもらいたかった。押しかけ女房どころか、魂ごと攫ってきたのだから。

「ひと月ほど前から、ユズリハに世話になっている」

 動揺する私の前で、ウィル様はさらっと答えた。

「はぁ!?それって一緒に住んでるってことかよ!?」

「そうだ」

「おまえ、ユズに何もしてないだろうな!?」

「リクア!?」

 思わず私は叫ぶ。なんてことを言うんだ。ウィル様はまっ白い魂の人なのよ!?
 何かするわけがない。健全な同居生活を送っている。

「ウィル様!顔合わせも済んだことだし、帰りましょう!」

 そういって私が二人の間に割って入ると、なぜかリクアが私の両肩を掴んで自分の方に引き寄せた。

「俺の方がずっとユズを知ってるんだからな!」

「は?」

 意味がわからない。どこでウィル様と張り合っているのか。

「リクア、おまえ勝ち目ないぞ」

 魔導士のおじさんがニヤニヤしている。ウィル様は剣士、リクアは錬金術師だ。勝ち目がないのは当たり前である。
 リクアは魔導士のおじさんにも「うるさいな」と言って悪態ついた。

 いい加減、私のことを放して欲しい。睨んでいると、ウィル様が私を呼んだ。

「ユズ」

「はい?」

 ふとウィル様を見ると、いつも穏やかな人なのに初めて見る無表情になっている。

「こっちに来て」

「っ!」

 無表情から一転して、ふっと笑った顔にときめいてしまう。
私は一瞬でリクアから離れ、ウィル様のそばに寄った。そっと右手を肩に置かれ、どきりとする。

「おいっ!ユズに近づくな!得体の知れないやつが、ユズに近づくなぁ!」

 その瞬間、ウィル様の手がピクリと動いた。見上げると、その表情が淋しげで私ははっと息を呑む。

「リクア、もう諦めろ。夕飯おごってやるから」

「そうだぞ。こういうことはタイミングっていうのがあるんだ」

 シェルダさんと魔導士のおじさんがリクアを宥め、この場を離れていく。

「ユズ、今度一緒に迷宮へ行こう。素材狩り、したいだろう?」

 魔導士のおじさんがそう言って笑った。私は「ぜひ」と答えて、去っていく三人に手を振る。

「また連絡する」

 シェルダさんの言葉に、私は頷いた。
 そして、同じく手を振っていたハクと目を合わせる。

「さ、ウィル、ユズ。帰ろうか」

「そうだね」

「……あぁ」

 ウィル様の声に元気がない。でもその顔を見上げると、私を心配させないように優しい笑顔を向けてくれた。その笑顔が儚げで、なぜか私は胸が締め付けられるような感じがしたのだった。




< 12 / 21 >

この作品をシェア

pagetop