だから私は、今日も猫を被る。

03.家族との見えない溝



「「七海、おはよ〜」」


朝、八時一〇分。教室へ入れば、すでに二人は来ていて机の上には、ファッション雑誌とお菓子が並べられていた。
私は時間でも間違えてお昼にでもやって来たのだろうか、と勘違いしてしまいそうなほどに机の上は完成されていた。
そんなところ先生に見つかりでもすれば、ファッション雑誌は没収、雑用を手伝わされるはめになる、なんてこと二人は考えてもいないだろう。


「おはよう。何見てるの?」
「ん〜、これ。春服、めちゃくちゃ可愛くない?」
「このワンピース欲しいんだよねぇ」


淡いピンク色に遠慮がちに散りばめられている花柄のワンピース。
袖はフリフリで、膝より少し短めで、着るのに抵抗がありそうだけれど、この二人ならきっとなんの躊躇いもなく着こなすだろう。
そしてきっと、お似合いだと容易に想像できる。

あー、可愛い! なんてブツブツ二人して言い合いながら、雑誌に目を奪われている。
まるで私の存在などあってないようなものだと言われているようで、ズキッと痛む心。


「七海も可愛いと思わない?」
「え? …ああ、うん!」


たまたま私がここにいるから二人が話を振ってくれているんじゃないのかな。
そんなふうに思ってしまうのは、私の心が歪んでいるからなのだろうか。
< 21 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop