地味で根暗で電信柱な私だけど、二十代で結婚できますか?
「清川さん、こんにちは」

 落ち込んでいないで仕事をしようとしゃがんで書棚の下のストッカーを開けたとき、横から声が降ってきた。

「あ、佐藤さん」

 私が気づくと佐藤さんは軽く会釈し、爽やかな笑顔を向けてくれた。

 佐藤さんは理工書の版元であるあんぺあ出版の営業で月に数回この店を訪れる。

 確か今年で二十三歳。見慣れたダークスーツは彼に良く似合っている。白いワイシャツが店内の照明でさらに白く映えていた。ネクタイの色も落ち着いていて真面目そうな印象を強めている。靴だって抜かりない。営業の鑑と呼べるくらい完璧だ。

「いつもお世話になってます。早速棚を見させてもらいますね」

 佐藤さんがそう言って鞄から既刊書の注文チラシを取り出した。このチラシには書籍ごとに発注する欄があり、その隣に現在の在庫を記す欄がある。彼はいつもこれを使って商談の前にコンピュータ関連の棚の残り部数をチェックしていた。

 私よりは背が低いがすらりとしたイケメンの彼は他の女子店員からも人気がある。私も彼のことは嫌いではなかった。

 けれど好青年な彼と地味で根暗な電信柱の私が釣り合うとは到底思えない。だから私は戦う前から諦めていた。

 欲張らずこのままでいさえすれば少なくとも月に数回は彼に会うことができる、それだけでいい。

 そう自分に言い聞かせていた。
 
 
 
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