冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。

これは、凄く恥ずかしい。


彼の背中がピクリと反応したように見えたからきっと聞こえているんだろうな。


「あの……ありがとう、私と付き合ってくれて。ほんとにほんとに感謝してる」


さっき言ってしまった大好きって言葉をごまかすように慌ててしゃべりだした。


「……感謝なんて、べつに。そんな大袈裟に言うなよ」


だけど、彼はちょっと照れているのかそっけない返事だった。


生徒玄関までたどり着いてようやく降ろしてもらうと外靴に履き替えた。


授業の始業を知らせるチャイムが鳴ると、彼はすぐに背中を向けた。


「じゃあ、これで」


低い声でそう言って足早に立ち去っていく。


あれれ、凄くそっけない。


ほんとに10分間だけなんだね。


だけど、私は彼の背中が見えなくなっても夢の中にいるような感覚だった。


当然、次の授業には間に合わず遅刻してしまう羽目になるんだけど、それでもその後1日中フワフワした気持ちがずっと続いていたの。

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