一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
「Du sollst den Tag nicht vor dem Abend loben.」
「ミスター。申し訳ありません、私は慣用句まで詳しくありません」
 
 玲奈が苛立った声で言う。
 不思議だね。何故、君に怒る権利がある?
 相手を罵っていいのは僕だけの筈だ。
 
「『夜がくるまで一日を褒めたたえるものじゃない』って意味だよ」
 
 勝者は君じゃない。

 まさか、こんなに早くに返り討ちに遭うと思っても見なかったのだろう。
 強張った表情を浮かべているのが、いい証拠だ。
 身上調査の結果も納得するしかなかった。

 上昇志向が強く、目的の為には手段を選ばない。
 碌な経歴もないのに、いきなり花形部署への抜擢。
 父親に援助されているからこそ住める、分布相応な高級賃貸住宅。
 とりわけ、大学時代の玲奈は最低だった。
 多賀見の名前と金で男を買っていたのだ。
 
 だが。
 
「Warum(なぜ……)」
 
 つい、呻き声のように言葉が漏れる。
 
「え?」
「nichts(なんでもない)」

『なぜ、君は僕の戻りを待っていなかった! 僕とのことを、一夜限りと思っていたのか?』
 
 問いただしたかったが、みっともなく縋ってしまいそうで言葉を飲み込んだ。

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