【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
おさとうじゅういちさじ


好かれている、と考えていいのだろうか。

圧力鍋に煮物を投入して火にかけてから、しばらくぼうぜんと考え込んでしまっていた。

遼雅さんにたくさん抱きしめられて、キスをされて、身体に力が入らなくなってしまったところで、どろどろにあまい声が囁いてくれていたような気がする。

夢のような音だったから、本当のことだったのか、すこし疑わしい気分だ。頬を抓ってみて、少し痛くてびっくりする。


「現実、かなあ」


ぐずぐずになって、答えることもできずにただ抱きしめられてしまった。しばらくしてチャイムが鳴ったら、遼雅さんは残念そうに「時間だね」と言って、身体を解放してくれていたような気がする。

ふわふわとおぼつかなくて、それからどうやって業務を遂行していたのかあまりよく覚えていない。

帰りがけに役員室へあいさつに行ったら、すこしだけ遅くなりそうだと言われたことは確かだ。


考え込んでいるうちに、煮物まで作成してしまった。

土日はじゅうぶんに残り物で過ごせてしまうかもしれない。

ぜんぜん、気分が落ち着いていない。そわそわして、胸がずっと大きな音を立てているように聞こえる。
< 229 / 354 >

この作品をシェア

pagetop