【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】
「俺は、うーん、仕事しかしてないつまらない男だよ」
「かっこいいですよ。いつもお仕事に一生懸命で、きらきらしています。きっと素敵な橘さんに引き寄せられて、好きになりすぎてしまうんですね」
「……それは、光栄なことだけど」
——きみにそう思ってもらえないのなら、意味がない。
「橘さん」
「うん?」
「橘さんのこと、すこしも意識していないような女性と結婚されたら、いいんじゃないでしょうか?」
呼びかけられて、水槽から反射してくる青に染まる、うつくしい顔立ちを見つめている。今、まさにどう口説き落とそうか考えている相手からの提案に、目を瞠ってしまった。
「ふふ、どうですか?」
とてもいいことを思いついた子どもが、満足して笑っているような、やさしい微笑みだ。
はじめて柚葉の満面の笑みを見たのがこの場だったことは、おそらく一生忘れないだろう。
感動的なほど、俺には興味がない。
「橘さん?」
「うん、いい提案だね」
「本当ですか? よかったです。私とは、そうですね。会長の気が済むまではこうしておしゃべりして」
「うん」
「橘さんの理想に合うような女性を考えるのは、どうですか?」
まるで親身な聖母のように微笑んでいた。
にくらしくかわいいその笑みに触れて、ようやく理解する。
とっくに理想の相手というものは、俺の目の前に現れてしまっていた。
あとは、どう引き込むかだけだ。