冬の雨に濡れて
第28話 高校の卒業
3月10日(土)、今日は未希の高校の卒業式だ。未希がどうしても来てほしいと言うので出席した。

長いようで短い1年だった。4月から未希が倒れたり、父親が死んで散骨に行って俺が不能になったり、いろいろあった。不能が一番の事件だったが、それにもなれたというか、あきらめがついてきている。未希との穏やかな生活の内に卒業を迎えた。これで未希は高校中退とはならずに卒業できた。

卒業の記念に校門の前で二人の写真を撮った。そういえば、未希の入学式の写真には両親と3人で写っていた。その両親はもういない。未希は天涯孤独だ。守ってやらなければと思う。

すでに未希は蒲田の調理師専門校に入学することが決まっている。すべての手続きも終えている。卒業したらすぐに毎日アルバイトをすることになっている。学校に通い始めると土日位しかアルバイトはできないから、今のうちにできるだけ稼いでおきたいようだ。

授業料は年間130万円で、未希が全額払うと言ったが約束どおり、半分は俺が身体で返す条件で貸してやることにした。今ではもう身体で返す意味がなくなっていたが、俺はそれでいいと言った。それ以外は未希の負担ということにした。

未希は高校を卒業できたことで自信がついたようで、以前よりもずっと明るくなった。それに専門学校に行かせることが決まって良いことをしたと思った。これで手に職をつけてやれる。幾分かでも未希の役に立っていると思うことで気持ちが楽になった。

このごろは、未希が俺の腕の中で眠っていてくれればいいと思うようになっている。それだけで心が休まり癒される。
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