あなたがくれた翼

怖かった

「桧山君、市民ホールの写真のことで話があるの」

「えっ、神崎さんはあの写真をみたの?」

「何よ、私が見たらいけなかった?」

「ごめん、無断で写真を応募したことで、腹を立てているんだよね?」

「わかっているなら、もう勝手に応募しないで欲しい」

桧山は普段、落ち着いたクールな一面を見せるのだけど、たじろぐ姿が可愛くみえた。
彼とは別クラス。
教室内で目立つことはしたくなかったので、彼を中庭まで連れていった。
中庭に行くまでの間、彼は決まりの悪そうな顔をしていた。
中庭に着いて私は深呼吸をして言った。

「桧山君の写真のモデルとして撮っていいよ。私のこと。無断じゃなければ良いよ」

「本当に!」

「それから、ありがとう。あの写真、元気が出た。裏側の写真も」

「なんで裏側の写真のことまで知ってるの!?」

「今日の桧山君は面白いね」

桧山はコホンと咳払いをした。
冷静を装ってみせるけど、もう遅いのではないのか。
恥ずかしそうに人差し指でポリポリと頬をかいていた。
私は桧山の表と裏の写真を見てから、尋ねたいことがあった。
口に出すと声が震えそうだ。

「桧山君は私のことが好きなの?」

私のことをファインダー越しにずっと見てくれていた。
モデルをお願いされたのは最近だけど、市民ホールの写真のことは一切口に出さなかった。
桧山の気持ちが知りたい。

「僕は神崎さんのことが好きだよ。大会で涙を流した時から好きだよ。それに今も変わらない」

男性から初めて告白された。
記録を出したことに我を忘れるくらい嬉しくて泣いた日。
あの時から、私は人に感動を渡せていたのだろうか。
膝の怪我で走れなくなった私。
私は怖かった。走れなくなった自分はもう誰も振り向いてくれないのではないかと。

「私は好きになりかけてる。桧山君のこと」

「あと一押し足りないのかな」

「そうね。ところで、写真のモデルはいつなれば良いの?」

「それはいつでも。撮りたい時に山ほど」

「それは困るわ」

やはり、桧山はどこでも、いつでも撮りたいみたいだ。
嬉しいけど、人の目があるのでやっぱり困る。
それを察したのか桧山は頭をかきながら言った。

「良い場所があるんだ。日曜日の予定はある?」

日曜日、私は桧山とデートすることになった。
桧山は私とのデートを意識してくれるのだろうか。彼のことだから、写真のことばかり考えてそうだ。それはなさそう。
どんな服装で行けば良いのかな。あまりオシャレに気遣う私ではないのだけど、この際、服を新調しようかな。軽くお化粧もしよう。
良い場所とはどこなんだろう。
もう既に浮かれていた。私は桧山のことが好きになっている。
そんなことを考えてると、ベッドの中で眠気に誘われた。
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