【新説】犬鳴村
 真面目に生き、これから新しい生活に胸を膨らませる二人の夢をこの残虐な事件が一瞬のうちに粉々に砕いたのである。


 ただ一人の男の欲望だけのためにーー。


 善人が死地に追いやられ、悪人たちがのうのうと生きる。人の世の不条理さの縮図があった。それが世の常と言ってしまえば、それほど容易いことはない。このような不条理さの中でぬくぬくと生きている悪人たちに天罰を与えるためにこの『犬鳴村』は存在した。


 多くの死地に追いやられた善人たちの血と涙の結晶がこの村を怪しげな血霧(けつむ)(おお)い隠していた。


 賢治を監禁していた二人は弁当を食べ終え、賢治が眠ったのを確認すると二人もいつのまにか寝てしまっていた。時間にして1時間ほど。育夫が先に目を覚まし前を見ると縄は(ほど)かれ賢治が居なくなっているのに気付く。


 慌てて隣でまだ寝ていた洋二の肩を揺らす。


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