もふもふになっちゃった私ののんびり生活

「やっぱりルリィちゃん!薬師の人が街から来てくれたけど、集会所の入り口に大きなお男の人が立ってたって聞いて、もしかしたらって思ったの」

 広場に続く小道から走って出て来たのはネネちゃんだった。その元気そうな姿を見て、身体から力が抜けてしまった。
 
「あっ、ネネちゃんっ!良かったー。村から木枯らし病が出たって聞いて、もしかしたらってアイリちゃんも心配していたんだよ」
「うん、私は大丈夫なの。でも、うちの弟が咳がひどくて集会所に居る筈なんだけど、見なかった?心配でも、私は集会所へ入るなって言われてて……。ルリィちゃん、私の弟、大丈夫だよね?」

 弟?ネネちゃんの弟なら、まだ小さな子供だよね?先ほど集会所で見た咳をしていた男の子?それとも高熱を出していた?……あの中の子供の内の一人が、ネネちゃんの弟だったなんて。

 頭の中でぐるぐると、さっきまでいた集会所の様子が回る。
 気づくと血の気が引いて、手が冷たくなっていた。そんな私の肩を、そっとヴィクトルさんが揺すった。
 肩から伝わった熱で、血の気が引いた身体に血の気が戻り、強張った身体から力が抜けた。

「ふう。……今、薬屋のおばあさんが見てくれているから安心してね。薬もたくさんあるし、集会所の人達が終わったら村の人も全員診るって言っていたから、もう大丈夫だよ」

 一度深呼吸をしてから、安心させるようになんとか笑顔を取り繕った。
 そんな私の肩を、ヴィクトルさんが支えてくれている。

「そう……。じゃあ、もう、大丈夫、なんだよね?血を吐いたり、高熱が出てそのまま死んじゃうことはないよね?」

 すがるような目と、ぎゅっと固く結ばれた震える手に、以前に木枯らし病が流行った時のことを思い出して怯えているのだということに気づいた。

「木枯らし病は、特効薬を飲めばきちんと治るっておばあさんが言っていたから大丈夫だよ!」

 今回は間に合った。ただ、このまま流行が続けば、またこの村から重症の人が出るかもしれない。その時も薬が間に合う保証がないのは分かっていても、弟を心配するネネちゃんに私は笑顔でそう告げることしかできなかった。

「ありがとう、ルリィちゃん。村に来てくれて、ありがとう……」
「お礼はおばあさんにね。私は修行不足だから薬の調合もできなかったの。さあ、ネネちゃん。確か妹さんもいるって言っていたよね?家で心配しているだろうから、戻って安心させてあげて?」
「あっ!じゃあ私、家に戻るね。ルリィちゃん、木枯らし病の流行が落ち着いたら、また朝市でおしゃべりしようね!アイリちゃん達にもよろしくね」
「うんっ!ネネちゃんも気をつけてね!」

 ほっとして、少しだけ良くなった顔色で手を振って去っていくネネちゃんを見送ると、ヴィクトルさんがそっと肩を抱き寄せてくれた。

 そしてそのまま背中を安心させるように心音の速さでそっとポンポンとなだめられ、取り繕った笑顔から力が抜け、安堵の吐息を漏らしたのだった。

 いつの間にか、ヴィクトルさんに頭を撫でられたりすると、安心するようになってたんだな。ヴィクトルさんと出会った時は、絶対拒絶しなかきゃ!って思ったのにね。

 そう思いつつ、「もっと警戒を!」と言うセフィーをなだめながら少しだけそのままでいたのだった。

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