もふもふになっちゃった私ののんびり生活
「ヴィクトルさん。私の話を、聞いていただけませんか?信じられないかもしれませんが、私の特殊な事情のことです」
「ああ。どんなことを言われても、最初から疑ったりはしないと誓う。だから、ルリィがずっと気にしていることを教えて欲しい」

 そう切り出した私に返された言葉は、言いたくないことは言わなくていい、という私に甘い言葉で。

 もう、いいよね。ねえ、セフィー。私のことを知ってくれる人がいたら、それだけで心強いもの。セフィーにはとっても感謝しているし、ヴィクトルさんのことを無条件に受け入れる訳ではないけれど。それには私も一歩踏み出さなきゃね。

 しっかりとネックレスを握ってそう語り掛けると、セフィーは沈黙の後に一言、『ルリィは好きなようにして下さい』とだけ返してくれた。

 本当に私は恵まれているよね。ねえ、神様。私は一歩、踏み出してみますね。


 そうして私は、私のことを全てヴィクトルさんに話した。
 別の世界で生きていた前世の記憶があること。三十歳で死んで、神様がこの世界にシルビィーとして転生させてくれたこと。そして精霊樹の結界と、そこに家まで用意して貰ったことに私の為に生まれてくれたセフィーのことも。

 ヴィクトルさんは膝をついて、目を合わせて途中で口を挟むことなくじっと私の話を聞いてくれていた。最後のセフィーのことに話した時だけピクリと眉が動いたのは、何かを察していたからだろうか。

「だから私は今でもこの世界の常識にうといし、魔獣の感覚も分からないんです。こんな中途半端な魔獣の私を、ヴィクトルさんは今でも番だと思えますか?」

 私の話を信じられますか、とは聞かなかった。別に信じてくれなくてもそれでいい、と思っていたが、目の前にある真剣な瞳は一度も揺れずに最後まで私の話を聞いてくれていたから。

「……ルリィの全てを分かる、とは言えないが、ルリィと出会ってからずっと傍で見て来た。だからルリィが街を周りながら目を輝かせているのも見ていたし、歯を食いしばって魔物と戦おうとしているも見ていた。今回の木枯らし病のことだって、街の人の為に駆け回って。そんな一生懸命にここで今、生きようとしているルリィの傍に、俺はずっと居たい」

 その言葉に、この一年半の間のことが頭を駆け巡った。
 ヴィクトルさんと出会ったのは、初めてこの街へ来た時の帰りで。あの時は何をやっても緊張していっぱいいっぱいだった。だからいきなり手を掴まれて、恐怖で暴れてしまった。
 その後も毎回街へ来る度に色んな物を見て、この世界を知って行った。そしてヴィクトルさんはいつも隣で、ドキドキしたり、目を輝かせていた私のことを見ていたのだ。

 ああ、そっか。ヴィクトルさんは、セフィーと一緒で私のことをずっと見ててくれていたんだ。ドキドキしていた時も、楽しい時も、不安な時も、それこそ初めて魔物を殺して吐いていた時も、泣いていた時も。

 私は前世を含めてルリィだし、そんな私にヴィクトルさんは魔獣や魔物のこと、街や国のこと、様々なこの世界のことを教えてくれた。

「いや……最初にルリィの目を見た時、恐怖に彩られていたのにその蒼い瞳に目を奪われていたんだ。まだ幼いから、と逃げていたのは俺だったのかもしれないな。ルリィ、どうかこの先、俺と一緒に生きて欲しい」

 そう、真っすぐな瞳で告げられて、私ももう、自分には前世があってこの世界では異物だからだとか、まだ成獣前で幼いだとか、そんな言い訳で目を逸らすことはできなかった。

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