もふもふになっちゃった私ののんびり生活
エピローグ もふもふ少女、旅に出る

「そっか。ルリィちゃんは十五歳になったら見習いにならないで、旅に出ることにしたんだね。寂しくなるけど、それでお別れじゃないもんね?」
「勿論だよ!二十歳になる前には、絶対に戻って来るからね。その後のことは戻って来てから決めるけど、でも、アイリちゃんは私の大事な友達だから、どこに住んだとしても会いに来るよ!」

 じゃあ、旅に出るまではたくさん思い出作ろうね!と二人で笑い合って、それからはカミラちゃんやネネちゃん、スージーちゃんとも会うたびに色々な話をしたし、たくさん遊ぶ約束もした。

 アイリちゃんは一人娘だし、宿を継ぐことを決意したそうで、今はしっかりと宿のことを学びながら料理ができる結婚相手を探す!と息巻いている。
 カミラちゃんは工房はお兄さんが継ぐが、気になっている弟子入りしている人がいるそうで、今後は工房の経営の方をお母さんに学ぶ予定だ。
 スージーちゃんは弟がいるけど、雑貨屋だし店は姉ちゃんに任せる!と言われているらしく、お店を継ぐ予定らしい。

 ネネちゃんは木枯らし病にかかってしまった弟さん以外にも下に妹弟が多く、農地は弟が継ぐけどまだ家の手伝いは必要なので、どうしようもなかったら街で結婚して店員さんをやるの、と話したネネちゃんは、とても大人びた目をしていた。

 おばあさんに旅に出ることを話すと、薬師になりたくなったら私が生きている間ならいつでも来な!と言ってくれた。
 結局弟子入りしたのに、見習いにならずに離れることになってちょっと申し訳ないな、と思うけど、もうおばあさんは本当のおばあさんのようにも思っているから、いつになるかはまだ分からないけど、いつかは薬師としての教えを受けようと思う。



 ヴィクトルさんの、「どうかこの先、俺と一緒に生きて欲しい」という言葉は、とりあえず二十歳まで保留にして貰った。

 私は精神的には前世の年齢を足し算にした年齢、とまではいかなくても大人なつもりはあるが、この世界ではまだ十三歳。私はせっかく転生したので子供な自分を楽しんでいるので、先のことはまだ考えられないので、それはきちんと説明した。

 では、何故、番のことを聞き、自分のことを話してヴィクトルさんに確認したのか、というと、私の将来を考えた時に選べる選択肢を増やす為だった。それが、旅に出る、という選択肢だ。

 街と家を往復してこの世界のことを少しは知ったつもりだったが、アイリちゃんとの会話で常識の違いにまだ馴染めていないと実感して、今はまだ将来を選択する段階じゃないと理解したのだ。

 日本では晩婚化が進んでいたし、三十歳だった私も結婚を意識していなかったのに、この世界では十八歳の成人と同時に独り立ちして結婚を考えるのが普通なのだ。

 私は今、ヴィクトルさんのことは置いておいても、街で手に職をつけて就職して、十八歳で結婚を考えられるか、といったらあと五年あっても無理だ。
 大分この世界に順応したと思っていたが、どうしても前世の常識の方が先に出てしまう。

 だから、私はこの世界のことをもっと知る為に、一度家やこの街と離れて旅に出ることを決めた。
 最低二百年、という私の今世を考えれば、旅に出て、色々な人と出会って、様々なことを知って、それから自分でどうしたいのかを決めても遅くはないだろう。

 まあ、そう決められたのは、ヴィクトルさんのお陰なんだけどね。一人旅なんて、結界を張れたって無理だし!

 旅に出るまでは魔物に対処できるように訓練は続けるし、家の本を読んでもっとこの世界のことを自分でも勉強もするつもりだが、もう一年以上も一緒にいるので、ヴィクトルさんのいる生活に順応してしまっているから、頼り切りになるつもりはないがあてにはしてしまっているのが現実だ。
 
 だからヴィクトルさんが番の強制力に囚われている訳ではなく、自分で選んで私の傍にいるのなら、私のやりたいことを見守りつつどこでも一緒に来てくれる、と信じられたので成獣になる前にこの世界のことを見て回りたい、という我儘を言うことができたのだ。

 勿論そのこともヴィクトルさんには正直に告げた。成獣した時、それでもヴィクトルさんを番として選ぶ、と今は言えないことも。
 それでもいいから一緒に、と言ってくれたヴィクトルさんとも、旅をしながらお互いのことをゆっくり知っていけたらいい、と思っている。

 番かどうかは成獣した後に考えるとして、番と好きになる気持ちは別のことだと思うから、それまでに回答が出ればいいんじゃないかと思うけど、まあ、それも二十歳まで、と期限を決めなくてもいいのかもしれない。

< 122 / 124 >

この作品をシェア

pagetop