もふもふになっちゃった私ののんびり生活

『な、成程。じゃあ私もその内耳と尻尾を隠せるようになるんですね』
「……ルリィはかわいいから、耳と尻尾は出したままでもいいんじゃないか?」

 小声で呟かれた声を拾ってしまい、一瞬どうリアクションしたらいいのか戸惑ったが、ここもセフィーの黒い笑顔を思い出して無視して声を上げた。

『で、では!魔物はヴィクトルさんが相手をしてくれる、ということでいいんですか?』
「あ、ああ。避けることも問題ないから、避けられない相手だけ倒して行こう」
『お願いします!先に行きます!』

 そう言って風を纏うと、気配を殺していつものルートを駆けだした。敢えて後ろは振り向かなかった。

 今、さらっとかわいいとか言われなかった?えっ、なんなの、この人っ!!

 出会った時は、いきなり手を掴まれて変質者だと思った。追いかけられてストーカーと戦慄したけど、話したらそう悪い人ではない気がしたし、セフィーが嫌がりながらも受け入れていたから護衛として受け入れた。

 でも番なんて認められないしっ!もう、どうしたらいいのっ!!

 混乱したまま走っていたのがいけなかったのか、周囲の気配を察知するのを忘れていたことを思い出した時には、目の前には大剣を振り切った姿のヴィクトルさんの姿があった。
 え……?と茫然としていた視界に、私よりも遥かに大きい大剣の刃にしたたる鮮やかな血の赤が映った。

「すまない、警告するのが遅れて避けるのが間に合わなかった。少しだけ後ろを向いていてくれ」
『は……はい』

 言われたまま後ろを向くと、倒した魔物の始末をしているだろう音を聞きながら、やっと今現実に起こったことだと実感する。

 え……でも、魔物にも気づかなかったけど、いつヴィクトルさんが前に来たの?

 セフィーが護衛として認めたのだから強いとは思っていたが、終わったから行こう、と声を掛けられるまで想像以上の実力に驚いて固まってしまっていたのだった。
 その後は無心にただ森の外へ安全に出ることだけを考えて風を纏って駆け続けた。

 一度だけ避けられないタイミングで魔物が近づいて来た時に、結界を張るかヴィクトルさんが倒した方がいいか迷ったら、その時も気づくとまた一刀でヴィクトルさんが倒していた。

 戦闘はその二回だけだったが、そのどちらも私には動きが全く見えなかった。

 本当に、ヴィクトルさんは強いんだね。それとも、ヴァンサーという種族はそれだけ強い種族なのかな?人化ができるから、上級の魔獣なのは間違いないけど。

 魔獣も種族が多いし、人里へ降りて来る種族ばかりじゃないらしくあまり本にも載っていないのだ。

 そこら辺は本人に聞いてもいいのだが、歩み寄るようでまだ聞く気にはならなかった。とりあえず街まで歩く間に魔獣について聞いてみようと思った。
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