もふもふになっちゃった私ののんびり生活
「そろそろお昼にしましょうか。結界を張りますので、食べている間は周囲の警戒をしなくても大丈夫です。多めに作って来ましたから、良かったら食べて下さい」
六ケ所目の群生地の傍で結界を張り、肩掛けカバンから昨日の夜から用意しておいたお弁当を取り出す。
用意したのは、レタスのような野菜と卵焼きを挟んだサンドイッチだ。
パンは以前アイリちゃんに作り方を教わったので、昨日の夜に仕込んでおいて今朝焼いた物だ。硬めのパンだが、薄く切って具も柔らかい物だけなので噛みきれるだろう。
サンドイッチ入りの箱を取り出してヴィクトルさんとの間に広げると、抗議するかのように胸元の枝がブルブルと震えた。
餌付けするなって言われてたけど、でも、今回は私の我儘に付き合って貰っている訳だし。これくらいは、ねぇ。
そのまま無視していたら、頭にセフィーの声が響いたけど、なんとかなだめてやり過ごす。
「……食べていいのか?」
「はい。具がお肉じゃないですけど、良かったらどうぞ。私は三つもあればお腹いっぱいですから」
どうやらその不穏な気配を察知したのか、干し肉を食べていたヴィクトルさんが恐る恐る声を掛けて来たので笑顔で頷いた。
第一このサンドイッチだって、別にマヨネーズも塗っていないし。変わった料理、といえるのは挟んだ卵焼きだけど、それだって干し肉でとった出汁を入れたけど味付けは塩と砂糖だし、特別美味しい物でもないんだよね。
卵は街で買えたが、生で食べるにはいくら浄化の魔法があっても菌が怖くてマヨネーズを作ることは諦めた。まあ、そう簡単に異世界飯チートなどできないのだ。
そう思いつつハムっとサンドイッチを一口食べてみたが、取り立てて美味しい訳でもないし、かといって不味い訳でもない、という味だった。
私が食べたのを確認してからサンドイッチに手を伸ばし、食べ始めたヴィクトルさんのことを何となく見ていると。
「……美味しいな。いつも外だと俺は干し肉だけでパンも食べないからな。ありがとう、ルリィ」
一口で半分を食べたヴィクトルさんは、ふっと笑みを浮かべてそんな言葉をくれた。
やっぱり肉食なんだ……。
と思いつつ、なんとなく少しだけほんわかした気分になりつつ、その後は無言でハムハムとサンドイッチを食べたのだった。