もふもふになっちゃった私ののんびり生活
 昼食を食べ終えた後は、水辺を目指して森の奥の川へと再びヴィクトルさんに乗って向かった。
 家の近くにある湖へ向かって川辺を歩きながらマギラ草を探す予定だ。

 ヴィクトルさんはこの森の更に奥、大陸の端のドラゴン種が住む山脈や海までの全ての場所をある程度把握していた。
 私的には辺境に生える精霊樹の、更にその奥をくまなく周った、とかどういうこと!と叫びたい。
 なんでも番を求めて旅を始めて何十年かかけて全ての国や街などを周ったあとは大陸の端の奥地を全てしらみつぶしに周っていたらしい。

 ……どうしてそこまでして番を求めたのか、とても聞いてみたい。それにそうしてまで見つけた番が私みたいなので、ヴィクトルさんは満足しているんだろうか?いや、そこは私が気にするところじゃないのかもしれないけど。

 グルグルする気持ちを持て余しつつ、気づくと毛並みをもふもふしていた。

 鬣はふわふわしているのかと思っていたら意外としっかりとした手触りで、ぎゅっと握りしめてもびくともしない。
 そしてヴィクトルさんの毛並みは、私と同じで上毛と下毛と二重に生えているからか、金が混じった赤色のオーバーコートは硬質だったが、金色のアンダーコートはふわふわな毛並みだった。

 ヴィクトルさんは長毛ではないが短毛でもなく、しっかりと毛並みのさらさら感まで味わえた。
 豹とかをテレビの画面で見ていた時は、ビロードみたいな肌ざわりだろうか、と想像して、いつかもふもふしてみたい!と思っていたが、ヴィクトルさんの毛並みはまるで毛足の長めの高級絨毯を連想させる肌ざわりだった。

 ううーん。いつか寝転がって全身で堪能したいと望んでいた肌ざわりがここにっ!!くうぅ。全身で味わいたい!

 一度動き出した手は止まらず、片手で鬣を握り、もう一方の手はもふもふな毛並みを撫でまくってしまっていた。
 当然さっきから胸元の枝は抗議して震えていたが、もふもふに飢えていた私の手が止まる筈もなく。

 自分の尻尾を手入れしつつもふもふしていたが、やはりそれとは違うのだ。もう、リスちゃんを拉致監禁したいと犯罪に走りそうなくらいにもふもふに飢えていたのだ!

『……ルリィ、着いたぞ。毛並みを気に入ってくれたのは嬉しいが、手と尻尾で撫でられるとちょっとくすぐったいのだが』

 ハッ!と我に返って手を止めて後ろを振り返ると、ブンブンと振り回されている自分の長い尻尾が、ヴィクトルさんの背中を跳ねまわっていた。

 あう……。なんて素直な尻尾なの。でも、嬉しくて仕方ないからしょうがないよね!

 開き直ろうかと思ったが、それでもバツが悪くなってそそくさとヴィクトルさんから風を纏って飛び降りたのだった。

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