没落人生から脱出します!
* * *

「久々に、木にでも登ろうかな」

 むしゃくしゃした気分がおさまらないエリシュカは、久方ぶりに庭にある木の枝によじ登った。十七歳の令嬢がやることではないが、知ったことではない。
風がエリシュカの銀の髪を巻き上げる。葉擦れの音がよく聞こえ、怒りに燃えていた自分の胸が、スーッと凪いでいくのを感じる。
 年頃になってからはやめていたので、木登りをするのは五年ぶりだ。

「でも登れるものね」

 思えば、記憶を無くしてすぐの頃も、簡単に登れることができた。幼い自分がひとりでできるようになるわけはないのだろうから、教えてくれる人物がいたのだろう。

(でも、サビナは木登りなんてしないわよね)

 もしかしたら、記憶を無くす前はほかにも世話係が居たのかもしれない。誰も教えてくれないということは、重要な人物ではなかったのだろうけど。

「それより、先のことを考えないと」

 エリシュカは、父親の言うことに素直に従うつもりはなかった。
 事業が傾いてきているのに、贅沢を辞めなかったのはエリシュカじゃない。なのにエリシュカが借金返済のために身を売るのは理不尽すぎる。

(屋敷を抜け出すのは簡単だけど、どこに行くかよね)

 なにせエリシュカの銀髪は目立つ。領土内にいたら、すぐに領主の娘だとバレてしまうだろう。

(他領にわたって、生きていける? ああ、そういえば叔父様はそうやって生きていたわね)
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