没落人生から脱出します!
(私の方が動かなきゃいけないのに……! 何たる失態)
「す、すみません。お世話になっているのに、なにからなにまで」
「いや。今のところお嬢はお客様だからな」
リアンはそっけなく言うと、エリシュカがついてくるのを時折確認しながら階段を下りていく。
キッチンには、トーストと目玉焼きという朝食が用意されていた。エリシュカはしっかりお礼を言い、手を合わせてからいただく。パンは中央の方が少し焦げていたが、バターがしみ込んでいてとてもおいしい。
「あの……リアンさんと叔父様の関係を聞いてもいいですか? この店はリアンさんのものなの?」
「ああ。ブレイク様は俺の魔道具作りの師匠なんだ。以前はもっと小さな工房で魔道具を作っていて、販売は大手の商会に任せていた。俺はそのころからの弟子で。……でも、ある程度資金ができてからは、自分で店を持って売った方が、儲けが出るだろ? 四年前にこの店を建てたんだ。店はブレイク様のものだけど、販売方法や維持管理は俺に任されている。だから一応、俺が店長と呼ばれているな」
「だから。叔父様はオーナーなんですね」
納得はできたが、なぜブレイクが自分で店を切り盛りしないのか。そんな疑問も浮かび上がってくる。欲がないのか。商売よりも道具を作る方が楽しいのか。
そこまで考えて、エリシュカは、自分が叔父のことをそこまで知らないということに気が付いた。
「ねぇ、リアンさん。私、実は、叔父様のことあまり知らないんです。お父様と仲が悪かったみたいで、覚えている限りでは一度しか会っていないから」
「それで、よく訪ねてこようって気になったな」
「そうですよね。でもたった一度でも叔父様は私に優しかったから。だから困ったことが起きたとき、真っ先に叔父様のことを思い出したんです」
リアンは栗色のウェーブがかった髪を軽くかきあげると、目を細めて彼女を見つめた。
「……旦那様や奥様は優しくなかった?」
エリシュカはドキリとする。リアンがキンスキー伯爵邸にいたという期間も、自分は両親から邪魔者のような扱いを受けていたのだろう。心配そうに見つめてくる瞳からは、そんなことが察せられる。
エリシュカはなるべく悲壮感が漂わないよう、あっさりと言った。
「私は扱いづらかったのだと思います。弟がふたりいるんですけど、お母様はそちらにかかりきりだったし」
「……家出の理由は?」