没落人生から脱出します!
 モヤモヤした気持ちが消えないエリシュカは、寝る前になって、リアンの部屋兼作業場の扉をノックした。

「リアン、起きてますか?」

 ノックの後、しばらくして扉が開かれたとき、リアンはとても不機嫌そうな顔をしていた。

「……夜にふらふらするなって、いつも言ってるだろ?」
「でも」

 なんと言ったらいいのか分からずうつむけば、ため息とともに頭の上に大きな手のひらが落ちてくる。

「なんか飲むか?」
「……はいっ! 私、お茶を入れてきます」
「いい。俺が行くから、お前はもう一枚なにか羽織ってこい」

 そう言うと、すぐにリアンは階段を下りて行ってしまう。

「……寒くはないんですけども」

 リアンは心配性すぎじゃないかとエリシュカは思う。だが、こうなったリアンは割と頑固で、その通りにするまでこっちを向いてくれない。仕方なく自分の部屋に戻り、カーディガンを羽織ってきた。
 リアンが持ってきてくれたのはホットミルクだった。少し砂糖が入っていて、優しい甘さに体がほんのり温まる。

「で、なにが気になっているんだ? リーディエのことか?」
「はい。……私が気にすることじゃないのかもしれないですけど」
「そうだな」

 話す前に断言され、エリシュカは一瞬黙り込んだ。だがやっぱりスッキリしない。このモヤモヤした気持ちを消化するのは、ひとりでは難しい。

「リーディエさん、本当はお父様に会いたいんじゃないでしょうか」

 リアンは彼女の言葉を真顔で受け止め、「だから?」という。

「あのな、エリシュカ。リーディエ自身に選択肢はないんだ。父親と会わせないってことは、あいつの親が決めたことだろ? 養育費を出していたというのなら、男爵家はリーディエの母親にできるだけのことはしている。これ以上は他人が口を出す話ではないよ」

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