没落人生から脱出します!
 ミルクの表面を、エリシュカのため息が滑っていく。
 リアンの言うことはもっともだ。だけど、悲しい。どうして決定権を持つのが貴族だけなのか。当事者であるリーディエの気持ちは考えてもらえないのか。

「貴族と平民って……そんなに相いれないものでしょうか」

 語り合うことさえ許されないのかと思えば、悲しい。分かり合おうと努力することさえ無駄だと言われたような気がしてしまうのだ。

「私が、リーディエさんの立場なら、たぶんフレディさんに嫉妬してしまうと思うんです。だって、子供であることには変わりないのに、リーディエさんは会うことさえできなかったんですよ? あんなに愛されてるフレディさんが羨ましくてたまらないと思います。私だって、気にしないようにしてたけど、本当は弟たちに嫉妬してました。同じ子供なのに、ふたりは両親に愛されていて、私は疎まれていたんですから」

 リアンが近づいてきて隣に座る。そして、おさげにしていたエリシュカの髪を、優しく触った。

「……昔のエリシュカは、泣いてたな。大きな声で」
「それ、いつの話ですか?」
「五歳くらいだったかな」

 言われてみると、かすかな記憶がよみがえってくる。具体的なことは思い出せないけれど、ただ弟たちが羨ましいと強く思って、泣いた記憶がある。
 大声で泣いたとき、助けてくれた人がいたはずだ。自分は好きだと。大切だと言って、壊れてしまいそうなエリシュカの心を助けてくれた人が。
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